2004-01-01から1年間の記事一覧

ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへの移行と共同性の衰退

人間の精神は基本的性向として、普遍的な真理や絶対的な価値への志向を持っているように思われてきた。 私達は、長い歴史の過程から固定的で強制的な価値が絶対化する危険を学習した結果、文化多元主義や価値相対主義の視座を獲得した。 私は、文化多元主義…

いつも日付を意識する事なく、ある程度の長さを持つエントリー(記事)を書く度に、一日の枠組みでアップしていますが、このエントリーを持って2004年度最後のエントリーとなります。 物事を深く考える契機として、自分の内面にあるものや知識として覚えてお…

イラク国民議会選挙:汎アラブ主義(Pan-Arabism)の挫折とイスラム原理主義の台頭

ビンラディン容疑者:イラク選挙ボイコットを呼び掛け http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20041228k0000e030001000c.html 中東の衛星テレビ、アルジャジーラは27日夜、国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者の声とされる声…

チューリング・テストによる人間と機械の識別

人間の意識と機械の機能の差異は、質的なものか、量的なものか。 多くの人間は、『人間と機械の差異は質的なものであるから、絶対に機械が人間と同質の意識を持つ事は有り得ない』と信じている。 私もどちらかと言えば、『人間の意識と機械の機能の質的差異…

切り離す事の出来ない『脳・身体・環境・他者』の連動が創出する幸福をアフォードする。

今日は、id:KENTAROさんの所で、『人間の脳と幸福を生み出す装置』に関する興味深い議論が行われていたので、そこにコメントした内容を一部加筆して掲載します。 id:Lainさんの意見なども色々と示唆されるものがありますので、関心のある方は、読んでみられ…

エリザベス・キューブラー・ロスの『最期のレッスン』

NHKで、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの人生と死去を取り扱った報道番組を鑑賞した。 エリザベス・キューブラー・ロス博士の臨死体験にまつわる思想やターミナルケアの活動について、私は以前、深い興味を抱いている時期があったが長い期間、彼…

喪失される『師資相承』と空中楼閣として聳える人徳

国語教諭:相田みつをの詩知らず、女子生徒けなす http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20041225k0000m040190000c.html 書き初めの宿題に書家、詩人として著名な相田みつをの詩を書いたところ、中学の男性国語教諭(53)に「やくざの書くような言葉…

主観主義と客観主義

今回のエントリーでは、ニーチェやサルトルの思想に見られるような主観的な個人の認識や決断による価値の実践に焦点を合わせましたが、もう一つ、分析哲学(言語哲学)を応用した客観主義的なメタ倫理学などもあり、『善い・悪い・正しい・〜すべし』といっ…

変転する人類の認識と克服されるアンシャンレジームとしての価値:寛容性を忘却しない普遍妥当性を目指して

『認識論・存在論・価値論』は、哲学の三大領域として密接に結びついています。私たちが、20世紀の『大量破壊兵器を用いた戦争の世紀』で学習した大きな倫理学的成果は、自然世界の真実への接近とその応用である科学技術の進歩が、人間の幸福や正義の実現…

科学教育の主眼は科学的思考の獲得にあり

理科教育:物理3学会、中教審に12項目の提言 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20041223k0000m040113000c.html 日本物理学会、応用物理学会、日本物理教育学会の3学会は22日、小・中・高校の理科教育の充実を求める12項目の提言を…

知的財産権の保護と情報社会における『所有形態』

情報技術の驚異的な進展によって、物理的な現実社会と電子的な仮想社会の分裂や対立が起きている中、法律がインターネットに代表されるサイバースペースでの犯罪や紛争に十分に対応出来ていないという話をよく聞く。 特に、著作権を中心とする知的財産権を従…

アニミズムの衰退と自然世界の機械化

id:cosmo_sophy:20041222で、原始宗教の心情的基盤にあったアニミズムの思想について触れました。シャーマン(精霊術師・呪術師・呪医)が、近代以降の社会から消えた最大の原因は、自然科学的世界観の普及です。 デカルトが、人間精神(思惟)と事物・現象…

語学に精通したラッセルと哲学に見る思考の解放性

偉大なる数理論理学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872〜1970)は、“ラッセル卿”と呼ばれるようにイギリスの名門貴族の傍流の家系*1に産まれた貴族であった。 ラッセルは、かなり小さな頃から語学領域に天才的な才能を見せ始めていた。祖父母は…

シャーマンの特殊能力と認知障害、ソクラテスのダイモンの声

進化論的な知見や立場から人間の行動や感情の由来を研究する『進化心理学』や病気や障害、寿命による死などを進化論の知識を利用して研究する『進化医学』などでは、統合失調症やうつ病などの精神疾患にも進化的な意義や環境適応的な要素があると説明される…

社会性昆虫のアリ社会の遺伝子による完全なる統制と遺伝子の呪縛を離れたヒト

情報技術の飛躍的なイノベーション、所謂、情報革命が『創発』の可能性を切り開いたというのは、ブログや個人サイトを含めた情報発信能力の分散と趣味の多様化によるコミュニティの細分化が大きな要素として機能しているという事だろう。 特に、インターネッ…

ised@glocomとサイバー空間における民主主義の可能性

ised@glocom http://ised.glocom.jp/ised/少し前に、多くのブログで引用され、有意義な議論や興味深い評論が為されていたised@glocomの『情報社会の倫理と設計についての学際的研究』ですが、その内容の分量が膨大な事もあって、簡単に目を通しただけで終わ…

田代まさし被告の公判:プライバシーの権利と性嗜好障害

田代まさし被告:第2回公判 http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20041218k0000m040113000c.html 覚せい剤取締法違反(所持、使用)などに問われた元タレントで無職、田代まさし被告(48)=本名・田代政=の第2回公判が17日、東京地裁(…

アリストテレスの三段論法から記号論理学(数理論理学)へ

人間の理性で最も有用性のあるとされる機能『論理(logic)』とは何か? 私たちはよく日常的な会話の中で、『彼の話は論理的だ』『彼の意見は非論理的だ』というセンテンスを口にする。 その場合に、私たちが留意しなければならない事柄は、『論理』に高い価値…

税制改革と増税による財政赤字削減

かなり長い記事だが、税金の納付と社会保障の給付の収支バランスを考える際のレファランスとして『税制改正大綱』を貼り付けておく。 少子高齢化が継続的に進行する社会保障基盤が安定しない情況であり、女性特殊出生率の急速な低下と未婚化晩婚化、若年層の…

『戦場のピアニスト』とナチスドイツの反ユダヤ政策

つい先日、『戦場のピアニスト』という実際の伝記に題材を取った映画をテレビで見たが、一人のピアニスト・シュピルマンの視点を通して、ナチス侵略下のポーランドの情勢と次第に生活領域を狭められ、ゲットー(ユダヤ人居住区)へと囲い込まれていくユダヤ…

脳の機能局在説と『人間本性(ピュシス)』に宿る美徳

精神医学において、『二大内因性精神病』と定義されるのは、『統合失調症(精神分裂病)』と『双極性障害(躁うつ病)』*1ですが、何故、その他の精神障害である神経症・心身症・自律神経失調症などと区別されるのかという問いに本質的な答えを与える為には…

『私』が『私』であるとはどのようなことか?脳と意識を巡って。

心と脳の相互的な関係について議論されている時に、頻繁に対立軸として採用されるのが、唯物論と観念論の歴史的対立であり、自然科学全般の基本的な研究手法と言える『還元主義』とクワインが説くような『ホーリズム』の手法的対立です。 心は脳と同一のもの…

感情を認識する人工ネットワークEMPATH

人間の社会的関係は、社会の構成員同士がコミュニケーションを行う事によって成り立つが、私たちは言葉によるコミュニケーションだけではなく、相手の表情や身振り、態度から相手の感情や気持ちを推測することができ、怒りや悲しみ、歓喜といった激しい感情…

生物社会と人間社会の規範の拘束強度の違いとテロリズム

人間の脳は、外部世界の認識に際して『プロトタイプ=標準的原型』からのズレを巧妙に利用し、『不完全な情報入力』を過去の経験や知識によって形成されたプロトタイプで補完して完全なものにする。 例えば、途中で切れた不完全な円や三角形であっても、点線…

“自殺”と“自由意志”に見る差延に翻弄される『自我』

ブログ『不合理ゆえに我信ず』の『実在と幻覚・物質世界と精神世界』の記事のコメント欄で自殺と精神に関する物理化学法則との関連についての話題が出ていたので、簡単ながら自殺と精神について考えてみます。人間の『自殺』という意識的な死の選択の行為は…

宇宙の広大無辺と精神の壮大無限

現在、脳と心の相互関係について、認知心理学や脳神経科学、神経生物学、動物行動学など数多くの学問領域によって精力的な研究が進められており、私も非常に強い関心を持っています。 心を人工的な科学技術で再現することが出来るのかという人工知能の研究な…

禁欲規則を遵守する自我の強さと誇大自己的な不遜の戒め

id:cosmo_sophy:20041211の記事に関連した部分である治療構造論や分析者の倫理規範に関するフロイトの言葉を引用しておきます。 『精神分析療法は、真実性の上に立つものである。・・・この点にこそ精神分析療法の及ぼしうる作用力と、その倫理的価値の大半…

岩月謙司容疑者逮捕に寄せて。カウンセリングにおける倫理原則。

<準強制わいせつ>恋愛指南本の香川大教授を逮捕 高松地検 [ 12月07日 22時04分 ] http://www.excite.co.jp/News/society/20041207220400/20041208M40.122.html 高松地検は7日、香川大教育学部教授、岩月謙司容疑者(49)=高松市昭和町1=を準強制わい…

人間は無益な受難であり、自由の刑に処せられた罪人に過ぎないのか?

id:KENTAROさんからトラックバックを頂き、緩慢な睡魔と共に生きる意味について思いを馳せながら、簡単に内容を敷衍してみます。『絶対的な意味はない』というKENTAROさんの言葉が印象に残りましたが、サルトルなんかが言う様に『人間は無益な受難』に過ぎな…

アリストテレスの生気論から機械論的自然観へ

『自然の全ての事物には、何か驚嘆すべきものがある。』と、博物学的な自然観察の書『動物誌』でアリストテレスが述べた様に、私達人間は自然界特に人間の生命に対して物理的・化学的な考察では解明出来ない神秘的で深遠な何か、例えば、魂だとか霊性だとか…