心理学

変わるべき個人と変えるべき環境・他者との原因帰属を巡る葛藤

カウンセリングや心理療法といった個人の心理的問題の解決を援助し、精神症状の苦痛を緩和していくアプローチが抱えている原理的な限界性として、“個人の内面心理と社会環境の調整の限界”が考えられます。ロジャーズやマズローの人間性心理学が人間の本性と…

近代社会システムの揺らぎとNEET人口増加の問題

「ニート」2002年で85万人、定義見直しで膨らむ――YOMIURI ON-LINE 内閣府の「青少年の就労に関する研究会」(委員長・玄田有史東大助教授)は22日、学校に行かず、働かず、職業訓練にも参加しない「ニート」と呼ばれる若者が2002年には85万人…

ブログにおける議論の促進と抑制の原理

むだづかいにっき♂さんに、何でもかんでも総ブログ化計画:【募集9】批判や反論……を題材にした“批判や反論……大人の対処法は?”という興味深い記事があったので、インターネット内のブログやウェブサイトの掲示板などにおける議論の促進と抑制について考えて…

カール・ロジャーズの意外な一面:環境管理につながる近代的社会システムへの葛藤

カウンセリング場面においては、温厚誠実な人柄を貫き、クライアントの語る話の内容を真摯に傾聴し続けた来談者中心療法の創始者カール・ロジャーズは、一人の思想家や活動家として見てみても興味深い人物である。 クライアントの感情や価値観を共感的に理解…

閉鎖的環境における性的虐待の隠蔽と歪曲:社会的弱者としての子どもの安全と幸福を願って

人間の性にまつわる尊厳を侵犯する性的虐待(sexual abuse)には、大きく分類して二つの加害者−被害者関係が想定できます。 一つは、全く見知らぬ他人が加害者となり、性行為(セックス)や猥褻行為(性に関連するあらゆる行為)などの性的被害を受ける『外部…

協力的ネットワークの拡大と共同体成立を可能とするインセスト・タブー:ウェスターマーク効果

id:cosmo_sophy:20050312において近親者による性的虐待が近親姦禁忌(インセスト・タブー)に抵触するという事を少し書きましたが、もう少し人間社会の禁忌について敷衍して考えてみます。 一定以上の普遍的コンセンサスを持つ社会通念や倫理規範である近親…

「ぱちもん」心理学研究所を読んで:沈黙のオーディエンスと主体的オーディエンス

id:cosmo_sophy:20050213で私が記述した『「いんちき」心理学研究所を巡る沈黙のオーディエンスの意識化と孤独感について』の記事を踏み台にして、id:santaro_yさんが『オーディエンスとブロガーの関係性』『沈黙のオーディエンスから主体的オーディエンスへ…

相補的な関係性(complemental relation)と対称的な関係性(symmetric relation)

id:cosmo_sophy:20050216において示された関係性は、『相補的な関係(complemental relation)』である。 相補的な関係性は、支配と服従の関係を戯画化した『主人と奴隷のパラドックス』で奴隷のいない主人は想定できないように、一方の行動パターンと他方の行…

“国民性の差異”を生み出す文化的環境と経験的学習

ナチスドイツの台頭によるユダヤ人迫害を避けて、アメリカに亡命したゲシュタルト心理学者にクルト・レヴィン(K.Lewin)がいます。 レヴィンは、科学的な還元主義に基づく行動科学的な心理学ではなく、知覚研究を基盤において心理現象の全体性や有機性を重視…

人格障害(クラスターB)の認知理論的な解釈

クラスターB(B群)……相互的な対人関係を築けない情緒不安定や依存性を特徴とし、自己の欲求や衝動を制御する良心や規範意識の乏しい群 境界性人格障害(borderline personality disorder) かつては、境界例と呼ばれ、精神病と神経症の中間領域にある人格傾…

人格障害(クラスターA)の認知理論的な解釈

心理学の概念としての『人格(personality)』とは、『個人を特徴づける継続的な特性の集合であり、個人に特有の一貫性のある思考・感情・行動・認知・対人関係のパターン』であると定義される。 その為、心理学及び精神医学の領域で、人格に言及する時には、…

エリック・バーンの“精神分析の口語訳としての交流分析”

フロイトやラカンの精神分析理論は、使用される専門用語の数が多く、専門用語によって指示される概念が難解であるだけでなく、その理論の全体を見渡す為には構造論・力動論・発達論・臨床技法など複数の理論を系統的に参照する必要があります。その精神分析…

古典的な神経症(ヒステリー)概念と人格障害の概略

精神分析が、主要な分析対象として、その病態を精細に理論化した精神疾患は、O・アンナやエリザベスの症例に典型的な『神経症(ヒステリー)』である。 フロイトが、母親への愛情と父親への対抗心といった親子関係のエディプス・コンプレックスの葛藤に苛ま…

デビッド・D・バーンズの10種類の認知の歪み(偏り)

臨床心理学の認知療法の理論によって、気分障害(うつ病等気分の変調を主症状とする病態)の抑うつ感の生起を説明する場合に必要不可欠になってくる図式は、『外界の事象→認知(思考)→感情・気分→行動』という行動メカニズムの図式です。この図式が成立した…

性格心理学の伝統的方法論としての『類型論と特性論』

人間の個人が動物の個体と異なる事を示唆する心理学的な概念を考えるならば、『人格(personality)』と『性格(character)』がまず考えられます。 人格と性格は、後天的な経験と環境の影響を非常に強く受ける可変的で柔軟性のあるものですが、一般的に年齢が高…

QOL概念が近代西洋医学に与えた影響とルネサンスの科学精神

医療行政、社会福祉、カウンセリング等の臨床心理学アプローチの目的は、20世紀半ば頃まで『量化可能な生活・健康の物質的水準の向上』に置かれていた。 その物質文明的価値観を変革する流れとして、功利主義に基づく“quantity of life”から全人的アプロー…

ライフスタイルの構成と要素:私を知り、あなたを知るということ。

『ライフスタイルとは何か?』という定義を一義的に述べる事は難しいし、個人差が大きく、その内容や程度は、正に千差万別の様相を呈することになる。 ライフスタイルを出来る限り詳細に知る事は、相手をより幅広く、奥深く知る事につながる。 他人同士が一…

奈良市の小1女児誘拐殺害事件と擬似児童ポルノ商品群の問題:大人になるという事とは何か?

奈良市で有山楓ちゃん(7)が殺された小1女児誘拐殺害事件の容疑者として、元毎日新聞販売所従業員の小林薫(36)が逮捕された事は記憶に新しい。 この誘拐殺害事件の起こった社会的背景を考察し、小林薫容疑者の心的発達過程と環境的要因、そして、事件…

カール・ロジャースの来談者中心療法とカウンセリングの基本的効果

一般的なカウンセリング技法として採用される事の多いカール・ロジャースの支持的な『来談者中心療法(client-centered therapy)』における基本的な人間像は『実現傾向を持つ個人』であり、その技法の最大の特徴は『非指示的(non-directive)療法』である事で…

価値が流動化する現代社会における適応とユングのペルソナ

カウンセリングが果たす『心理的な悩みや問題への支援』という役割は、従来、軽い悩みであれば家庭の両親や学校の教師、地域の長老格が果たし、人生の意義といった深い悩みであれば宗教がその役務を果たしてきた。 しかし、市場経済による消費社会の到来は、…

生活環境と対人関係への適応的な総合的変容を志向するカウンセリング

カウンセリング(counseling)という言葉は、相談・忠告・助言という意味を持ち、広義のカウンセリングは、『何らかの問題や疑問を持っている人が、自分よりも知識・経験・技術において秀でていると思う相手や信頼できて助言を得たいと思う相手に相談や助言を…

チューリング・テストによる人間と機械の識別

人間の意識と機械の機能の差異は、質的なものか、量的なものか。 多くの人間は、『人間と機械の差異は質的なものであるから、絶対に機械が人間と同質の意識を持つ事は有り得ない』と信じている。 私もどちらかと言えば、『人間の意識と機械の機能の質的差異…

『私』が『私』であるとはどのようなことか?脳と意識を巡って。

心と脳の相互的な関係について議論されている時に、頻繁に対立軸として採用されるのが、唯物論と観念論の歴史的対立であり、自然科学全般の基本的な研究手法と言える『還元主義』とクワインが説くような『ホーリズム』の手法的対立です。 心は脳と同一のもの…

生物社会と人間社会の規範の拘束強度の違いとテロリズム

人間の脳は、外部世界の認識に際して『プロトタイプ=標準的原型』からのズレを巧妙に利用し、『不完全な情報入力』を過去の経験や知識によって形成されたプロトタイプで補完して完全なものにする。 例えば、途中で切れた不完全な円や三角形であっても、点線…

“自殺”と“自由意志”に見る差延に翻弄される『自我』

ブログ『不合理ゆえに我信ず』の『実在と幻覚・物質世界と精神世界』の記事のコメント欄で自殺と精神に関する物理化学法則との関連についての話題が出ていたので、簡単ながら自殺と精神について考えてみます。人間の『自殺』という意識的な死の選択の行為は…

宇宙の広大無辺と精神の壮大無限

現在、脳と心の相互関係について、認知心理学や脳神経科学、神経生物学、動物行動学など数多くの学問領域によって精力的な研究が進められており、私も非常に強い関心を持っています。 心を人工的な科学技術で再現することが出来るのかという人工知能の研究な…

禁欲規則を遵守する自我の強さと誇大自己的な不遜の戒め

id:cosmo_sophy:20041211の記事に関連した部分である治療構造論や分析者の倫理規範に関するフロイトの言葉を引用しておきます。 『精神分析療法は、真実性の上に立つものである。・・・この点にこそ精神分析療法の及ぼしうる作用力と、その倫理的価値の大半…

岩月謙司容疑者逮捕に寄せて。カウンセリングにおける倫理原則。

<準強制わいせつ>恋愛指南本の香川大教授を逮捕 高松地検 [ 12月07日 22時04分 ] http://www.excite.co.jp/News/society/20041207220400/20041208M40.122.html 高松地検は7日、香川大教育学部教授、岩月謙司容疑者(49)=高松市昭和町1=を準強制わい…

不条理なる世界に生きる人間の対象喪失の危機

セカチューという略語も出来た片山恭一氏の『世界の中心で愛をさけぶ』の中で、ヒロイン役の向井亜紀が罹患する病気は白血病であるが、人間にとって白血球は欠かす事の出来ない重要な細胞である。 白血球は、自己と非自己を区別して生命を防衛する免疫システ…

血液型性格診断の類型論の決定論的問題

最近、テレビや雑誌を見ていると、『血液型性格診断』の文字をよく見かけます。 その内容のキャッチコピーを見ると、『相手の血液型を知れば、恋愛は上手くいく。顧客の趣味嗜好を血液型で知れば、仕事は成功する。あなたが人間関係で悩むのは、血液型の相性…