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変わるべき個人と変えるべき環境・他者との原因帰属を巡る葛藤

カウンセリングや心理療法といった個人の心理的問題の解決を援助し、精神症状の苦痛を緩和していくアプローチが抱えている原理的な限界性として、“個人の内面心理と社会環境の調整の限界”が考えられます。ロジャーズやマズローの人間性心理学が人間の本性と…

カール・ロジャーズの意外な一面:環境管理につながる近代的社会システムへの葛藤

カウンセリング場面においては、温厚誠実な人柄を貫き、クライアントの語る話の内容を真摯に傾聴し続けた来談者中心療法の創始者カール・ロジャーズは、一人の思想家や活動家として見てみても興味深い人物である。 クライアントの感情や価値観を共感的に理解…

子どもの沈黙の理由を語るグッドウィンのBLIND理論

性的虐待を受けた子どもの大半は、その行為に嫌悪や不快を感じていても、それをはっきりと言葉で表現して拒絶することが出来ない。 子どもが何故、性的虐待に対して沈黙を守るのか、拒否の意思表示が出来ないのかという理由について、グッドウィン(J.M.Goodw…

性的虐待・性暴力の定義と子どもに対する性的虐待の精神的影響

家庭内における性的虐待という残酷極まりないエゴイスティックな虐待行為は、人間社会の倫理規範を二重に侵犯していると言えます。 一つは、『性暴力(sexual abuse or sexual violence)』という子どもの性的尊厳の不条理な侵害という侵犯行為で、これは強姦…

反社会性人格障害と被害者意識を伴う認知傾向

精神病理学の中で、心理的原因によって種々の症状や機能障害が出る神経症水準の疾患は、カウンセリングや心理療法などで比較的容易に治療でき、内因性・心因性の統合失調症(精神分裂病)に代表される精神病水準の疾患も、現実認識能力の著しい低下は見られ…

『遊びと空想の理論』からの連想による精神分析の“場”の特殊性

現実と想像の境界線が朦朧として、曖昧になる精神状態を呈す統合失調症(精神分裂病)に対するサイコセラピー、カウンセリングの本質が何処にあるかを考えると、それはメタ・コミュニケーションの傾向や性癖の変容にある。 これは、カウンセリング及び心理療…

統合失調症の“言葉のサラダ”とベイトソンのコミュニケーション理論の研究

統合失調症(精神分裂病)の代表的な症状に、言語の論理性の混乱と他者とのコミュニケーションの障害を示す“言葉のサラダ”というものがあります。 言葉のサラダとは、言語によって構築される観念(概念)と意味の体系が破綻して、支離滅裂で共通理解不能な言…

人格障害(クラスターB)の認知理論的な解釈

クラスターB(B群)……相互的な対人関係を築けない情緒不安定や依存性を特徴とし、自己の欲求や衝動を制御する良心や規範意識の乏しい群 境界性人格障害(borderline personality disorder) かつては、境界例と呼ばれ、精神病と神経症の中間領域にある人格傾…

人格障害(クラスターA)の認知理論的な解釈

心理学の概念としての『人格(personality)』とは、『個人を特徴づける継続的な特性の集合であり、個人に特有の一貫性のある思考・感情・行動・認知・対人関係のパターン』であると定義される。 その為、心理学及び精神医学の領域で、人格に言及する時には、…

抑うつスパイラルによる悪循環からの離脱の為の認知転換

認知療法の創始者であるアーロン・ベックが、うつ病の認知の三徴候(cognitive triad)と呼んだのは『自己に対する否定的な認知・世界に対する否定的な認知・将来に対する否定的な認知』でした。 以前(id:cosmo_sophy:20050119)、認知療法の理論による気分障害…

気分障害の下位分類としての気分変調障害と気分循環障害

うつ病(単極性障害)や躁うつ病(双極性障害)は一般的な病名として、現在、広く人口に膾炙しつつありますが、id:cosmo_sophy:20041216において、気分の異常な興奮や落ち込み、感情の不安定さを主訴とする病態の高次分類として気分障害を上げました。うつ病…

エリック・バーンの“精神分析の口語訳としての交流分析”

フロイトやラカンの精神分析理論は、使用される専門用語の数が多く、専門用語によって指示される概念が難解であるだけでなく、その理論の全体を見渡す為には構造論・力動論・発達論・臨床技法など複数の理論を系統的に参照する必要があります。その精神分析…

古典的な神経症(ヒステリー)概念と人格障害の概略

精神分析が、主要な分析対象として、その病態を精細に理論化した精神疾患は、O・アンナやエリザベスの症例に典型的な『神経症(ヒステリー)』である。 フロイトが、母親への愛情と父親への対抗心といった親子関係のエディプス・コンプレックスの葛藤に苛ま…

デビッド・D・バーンズの10種類の認知の歪み(偏り)

臨床心理学の認知療法の理論によって、気分障害(うつ病等気分の変調を主症状とする病態)の抑うつ感の生起を説明する場合に必要不可欠になってくる図式は、『外界の事象→認知(思考)→感情・気分→行動』という行動メカニズムの図式です。この図式が成立した…

アーロン・ベックの抑うつ理論と簡潔明瞭な認知療法の確立

うつ病の症状の種類と重症度を客観的に測定する尺度として、アーロン・ベック(Aaron T. Beck)が1961年に考案し実用化した『BDI(Beck Depression Inventory:ベック抑うつ評価尺度)』という評価尺度があります。 ペンシルバニア大学のアーロン・ベックは、精…

性格心理学の伝統的方法論としての『類型論と特性論』

人間の個人が動物の個体と異なる事を示唆する心理学的な概念を考えるならば、『人格(personality)』と『性格(character)』がまず考えられます。 人格と性格は、後天的な経験と環境の影響を非常に強く受ける可変的で柔軟性のあるものですが、一般的に年齢が高…

ライフスタイルの構成と要素:私を知り、あなたを知るということ。

『ライフスタイルとは何か?』という定義を一義的に述べる事は難しいし、個人差が大きく、その内容や程度は、正に千差万別の様相を呈することになる。 ライフスタイルを出来る限り詳細に知る事は、相手をより幅広く、奥深く知る事につながる。 他人同士が一…

カール・ロジャースの来談者中心療法とカウンセリングの基本的効果

一般的なカウンセリング技法として採用される事の多いカール・ロジャースの支持的な『来談者中心療法(client-centered therapy)』における基本的な人間像は『実現傾向を持つ個人』であり、その技法の最大の特徴は『非指示的(non-directive)療法』である事で…

価値が流動化する現代社会における適応とユングのペルソナ

カウンセリングが果たす『心理的な悩みや問題への支援』という役割は、従来、軽い悩みであれば家庭の両親や学校の教師、地域の長老格が果たし、人生の意義といった深い悩みであれば宗教がその役務を果たしてきた。 しかし、市場経済による消費社会の到来は、…

生活環境と対人関係への適応的な総合的変容を志向するカウンセリング

カウンセリング(counseling)という言葉は、相談・忠告・助言という意味を持ち、広義のカウンセリングは、『何らかの問題や疑問を持っている人が、自分よりも知識・経験・技術において秀でていると思う相手や信頼できて助言を得たいと思う相手に相談や助言を…

禁欲規則を遵守する自我の強さと誇大自己的な不遜の戒め

id:cosmo_sophy:20041211の記事に関連した部分である治療構造論や分析者の倫理規範に関するフロイトの言葉を引用しておきます。 『精神分析療法は、真実性の上に立つものである。・・・この点にこそ精神分析療法の及ぼしうる作用力と、その倫理的価値の大半…

『ひき裂かれた自己』レイン:内的世界の相互干渉と他者性

統合失調症(精神分裂病)にまつわる誤解や偏見は実に基本的な部分にある事が多い。 過去の記事id:cosmo_sophy:20041109に書いたように、精神分裂病という名称から生じた間違った認識として『精神機能の分裂を人格の分裂と崩壊』に置き換えて考えてしまう事…

フーコーの関係的な権力作用に抗したレインの反精神医学

id:cosmo_sophy:20041109の記事に関連する一連の流れの中で、19世紀末〜20世紀初頭のクレペリンの早発性痴呆(1899年)やブロイラーの精神分裂病(1911年)などを振り返って、精神疾患概念の定義と整理の歴史を見てきました。 不治の病とされていた統合失調…

精神分析学の転移概念と分析的関係の距離感

id:cosmo_sophy:20041110の記事で、精神分析やカウンセリングの治療的面接の場面において生起する『転移(transference)と逆転移の概念』*1について簡略な説明をした。転移とは、クライエントの過去の記憶に痕跡を残している強烈な満たされない感情の向かう先…

対人関係の苦悩や葛藤:創造的な人生の豊かさを演出する対人関係への変容

あなたには、現在、自分を苦しめている悩みや解決の困難な問題、耐え難い苦悩を生じる事態がありますか? 人間の苦悩や不安、更には、悲しみ、苛立ち、焦燥感、憂鬱感などは総じて『心理的問題』であると同時に『関係的問題』です。 私の抱える悩みや苦しみ…

ブロイラーの精神分裂病概念の発展とボーダーラインの出現

前回、クレペリンが早発性痴呆(Dementia praecox)の疾病単位を確立して、それまで曖昧模糊としていた症候群から躁鬱病と統合失調症という『二大内因性精神病』を析出した事を見てきました。 内因性は、先天的・後天的な身体的原因が想定されるが原因を特定…

クレペリンによる精神医学の体系化と早発性痴呆の疾病概念

精神分裂病*1の名称の歴史は、オイゲン・ブロイラー(Bleuler,E. 1857〜1937)が1911年に『Schizophrenie:精神分裂病』の精神疾患概念の提示をした事とその邦訳(日本語訳)に始まります。 “Schizo”は『分裂』を意味し、“phrenie”は『魂・精神・息吹』を意味…

精神病理学のデファクトスタンダードとしてのアメリカ発DSM―Ⅳ

id:cosmo_sophy:20041101の記述で、フロイトの精神分析理論における精神病(統合失調症)の位置付けを大まかに略述した。 伝統的な精神分析では、精神病と神経症の区別を『現実検討能力・現実吟味能力』の有無と『主訴である症状の苦悩や内容について健常者…

フロイトの精神病解釈。唯物論と唯心論

現在、統合失調症と呼ばれる精神疾患*1の歴史を遡る事で、20世紀の精神医学の概観を知る事が出来る。シグムンド・フロイト(1856-1939)の精神分析学が主要な適応症としたのは無意識的願望の抑圧として発病する『神経症(ヒステリー)』であり、精神病として…