センス・オブ・ワンダー

レイチェル・カーソンセンス・オブ・ワンダー The Sence of Wonder』を久々にパラパラと読んだ。
忙しい毎日の中で時間に追われているような人に、生きていく事に輝く価値が感じられなくなった人に、世界や人間に愛情を抱く事が難しくなった人にこの本はお薦めです。

現代人は、日常生活の中で数多くのストレスに曝されて、身体的に疲弊し、精神的に萎縮してしまう事が多いと思います。
何もやる気が起こらなかったり、どんな娯楽や遊びにも興味を惹かれなかったり、同じように繰り返される生活に倦怠してしまうこともあるかもしれません。

そういった疲労感や倦怠感は何処からいつやってくるのでしょう。小さかった子どもの頃には、どんなに暴れまわって、一日中遊んでも深刻な疲労感はなかったはずですし、学校の勉強が少々苦痛な子どもでも世界や生きている事がつまらないという倦怠感とは無縁だったはずです。

今の私達に欠けているもの、欠けやすいものは『センス・オブ・ワンダー』なのかもしれません。
センス・オブ・ワンダーとは、『未知の知識や不思議な現象に対する純粋な驚愕の感性』とでもいうべきものです。
古代ギリシアアリストテレスは、哲学を行う好奇心の源泉は『驚き』であると述べていますが、普段見慣れている出来事や事物でも落ち着いた素朴な心で見つめなおせばそこには新鮮な驚きの発見があるかもしれません。

子どもの頃に持っていた驚きの感性、美しいもの、清らかなもの、偉大なもの、深遠な神秘に満ちたもの、畏敬を感じる壮大なものに接した時の純粋な憧憬・尊敬・探究心を思い起こすことが出来る人はいつまでも精神的に老衰することが無いのかもしれません。

『世界なんてこんなものだ。生きていくなんて食べて、寝て、働いての繰り返しだ。現実を直視して合理的に生きなければならない。この世界には物質以外に存在しないから不思議なことなんて何もない。宇宙は広大だが、そんなことを調べても無意味だ』・・・こういうセンス・オブ・ワンダーを抹殺する生き方はどこか荒涼とした砂漠に似ていて、人生の味わいとも深みとも無縁な無味乾燥なものになるかもしれません。

毎日の生活や自分の健康状態や家族の問題やお金の問題で、この世界は絶望的で苦痛に満ちていると嘆く人は数多いですが、人間という存在の特権である想像力と知性は生きている限り無限であり、そこから獲得できる驚嘆と感動そして幸福は無尽蔵なのです。
自然界の神秘的な現象に触れたり、生態系の驚くべきシステムに感動したり、地球にしか存在しない生命を持つ生物の形態や行動を観察して新たな発見をしたりする事で、人間は人工的な利益や喜びとは異質の本質的な安らぎや感動を経験することが出来ます。

何より、他の誰とも代わる事のできない『私』という意識をもって、『ここ』という場所に存在していること自体が最大の驚きではないですか?私より以前にも、私より以後にも時間軸の中で、私以外の私はいないし、同時代の何処まで探しても私以外の私はいない。こんなにも奇跡的で神秘のベールに包まれた意識が『私』なのですから。