ナンパ形態の変遷とコミュニケーション

ナンパ論とコミュニケーションのあり方の考察はなかなか面白い。
僕は、『ナンパの形態の変化と要請されるコミュニケーションスキル』といったテーマで昔、色々と考えた事があります。

一昔前のナンパと言えば、路上で抜き打ちに声を掛けるか、車のナンパスポットで順番待ちをして声を掛けるか、集団同士で友達感覚で声を掛けて進展を狙うか、合コンのような形で事前の打ち合わせのあるナンパのような形態をとるかといったものでした。
こういったナンパ形態を『直接的・視覚的ナンパ形態』という概念で僕は捉えます。
それに対して、IT技術の進歩と携帯・PDAなどのモバイルツールの普及によって登場したナンパ形態を、『間接的・言語的ナンパ形態』と呼びたいと思います。

このナンパ形態の変化による最大の影響は、junp_m(id:junp_m)さんの言う『確定記述(見た目や性格など取り替え可能なもの:特に外見容貌)』による対象選択の効果が弱くなった、つまり第一印象による排除の可能性が小さくなったということであると思います。
これは、ある意味ではコミュニケーションのパラダイム転換であるとも言え、よく社会的問題としての文脈で語られる『対人関係のバーチャル化』とも関係した事柄です。
このパラダイム転換がもたらしたものは、生活圏における直接的な関わりがない他者(異性)との出会いの可能性を高めた事とナンパ的な異性とのコミュニケーションへの敷居を低くしてナンパに参加する層を厚くしたことがあると思います。

特に、傷つきやすく繊細な感受性を持つ現代の若年層にとって最も回避したい、『第一印象による無条件な拒絶』という事態は『間接的・言語的ナンパ形態』では確実に回避することが出来ます。
また、自分の得意な分野の会話を中心としたコミュニケーションを高く評価してくれる異性を低リスクで見つける事が出来るというメリットもあるでしょう。
『直接的・視覚的ナンパ形態』では、自分の得意な分野や趣味、知識に関する話題をするチャンスはまずなく、第一印象で好感を得てから比較的軽めの話題と食事やドライブへの誘い文句だけのコミュニケートになります。

それはまぁ、当然といえば当然で、街でいきなり異性に声を掛けておいて、突然、自分の趣味について語り好きな歴史や文学の話をされたって、相手は引くだけでしょう。
また、コミュニケーションの質と量において、『直接的・視覚的ナンパ形態』は、軽くて感覚に訴える話題(容姿の美しさ・髪形や服装のお洒落さ・乗ってる車の種類・普段の遊び場所・お酒や食事の話など)が中心となり、『間接的・言語的ナンパ形態』は、やや内容のあるお互いの趣味や知的好奇心を満たす話題や個人的な内面の葛藤や思いに関する話題が多くなる傾向があります。
両者のナンパ形態のデメリットを挙げれば、『直接的・視覚的ナンパ形態』では、容姿やスタイル、ファッションの好みで裏切られることは少ないが内面的な価値観や個人的な趣味嗜好について深く触れる機会が少なく、実際に付き合い始めて趣味や価値観の食い違いを起こす場合があるということであり、『間接的・言語的ナンパ形態』では、内面的な価値観・趣味嗜好・思想信条のようなものについては幾らでも言語的に深く複雑に語り合えて理解し合えるが、実際に写真交換したり会ったりした場合に容姿・スタイルが余りにも期待していたものと違うことで恋愛感情が一気に冷めてしまうことがあるということでしょうか。

『固有名(自分そのもので代替不可能な主体)』には、身体的側面と精神的側面がありますから、両者を十分に満たす異性とナンパで出会えたら素敵ですね。