『性格決めつけ』の血液型番組への抗議


毎日新聞 ―テレビ―

血液型番組:「性格決めつけ」視聴者から抗議相次ぐ
http://www.mainichi-msn.co.jp/geinou/tv/news/20041127k0000e040065000c.html

血液型による性格判断を扱うテレビ番組が、今春から増えている。特定の血液型を「いい加減な性格の持ち主」「二重人格」などと決めつける内容が目立ち、NHKと民放が設立した第三者機関「放送倫理・番組向上機構BPO)」には、視聴者から「子供が血液型でいじめを受けた」「一方的な決め付けで不快」などの抗議が4月以降、50件以上寄せられた。このためBPO青少年委員会は番組内容などを検討し、「科学的根拠があるかのような体裁で問題がある」などと判断、近く民放各社に対し、番組制作にあたり慎重な対応を、と要望する。

 「決定!これが日本のベスト100」(テレビ朝日系)、「発掘!あるある大事典2」(フジテレビ系)などのバラエティが、血液型による性格判断を扱う特集を組み、確認できただけで10月に少なくとも6回あった。内容は▽嫌いな血液型、相性が悪い血液型などをランク付けする▽タレントらが「B型はいい加減」「AB型は二重人格」などと言い合う▽保育園児を血液型別に行動観察する−−などだ。

 立命館大佐藤達哉助教授(社会心理学)によると、血液型性格判断は80年代にブームになった。学者らが「統計上の違いはわずか。科学的には何も実証されていない」などと批判し、沈静化したが、再び雑誌などが取り上げ「大衆の常識のように定着してしまった」という。

 血液型番組の差別・偏見を告発するサイトを9月に開設した岡山大の長谷川芳典教授(心理学)は「ほとんどの番組は、いい加減なデータでレッテル張りをしている。血液型という生まれつきのもので他人を判断することは不当だ」と批判している。【保泉淳子】


私が、『血液型性格診断の決定論的問題』(id:cosmo_sophy:20041129)の記事を書いた後に、上記の『血液型番組への苦情・抗議』の新聞記事を見つけましたが、偶然の一致とは言え時宜を得たトピックではあるようです。
私は、血液型性格診断の科学的研究の推進には肯定的ですが、マスメディアを通した娯楽としての血液型性格診断のレッテル貼りに『科学知の専門性や権威性』を流用する事には慎重であるべきだと思います。
一番留意すべきは、複雑多様な行動メカニズムの起点である個人の性格(人格)は、A型は真面目で努力家、B型は大雑把で自由気ままという様に『単純な類型論』に押し込める事は不可能だと言う事です。
A型の人間が何時どの様な場合でも真面目で几帳面で組織的活動に適応しているわけはありませんし、B型の人間が何時でも楽観的でいい加減で自己中心的なわけはありません。

そもそも、心理学的に一定の信頼性と妥当性が認められている性格の類型論は、個別的な心理テスト(性格評価尺度)を実施して、その結果に基づいてどの類型に該当するのかを考えていくわけですから、本人の行動選択や思考傾向や価値観が結果に反映しています。
ついでに言いますと、心理学的な質問紙法による性格診断には本人の自己認識に反した結果は出る可能性がまずありません。
『私はそんな性格ではない』と主張しても、質問項目に『私は、外で遊ぶよりも、家で読書やゲームをするほうが好きだ』という質問にYesと答えれば、外出する娯楽よりも室内でする娯楽のほうが好きな性格だと出ますし、『人前に出て自分の意見を主張する時に緊張する』という質問にNoと答えれば社会的場面での緊張感が少なく、集団での自己主張が得意な性格だと出るのですから、本人の質問への答えが結果に反映されているところが血液型性格判断とは大きく異なります。
私は、心理学的な質問紙法と統計的処理による性格論も、自然科学と同列な科学的仮説とは呼べないとは思いますが、相手の選択に依拠する『了解的な性格論』ではあると思います。自己申告型である為に、結果の客観性に疑義は残りますが、交流分析などのように家族や他者が本人についての質問に答える方法と合わせて総合的に解釈することで客観性を高める事もできるでしょう。

血液型性格診断の場合には、A型の人が『私は部屋の掃除なんかしないし、努力するのも嫌いで適当に仕事してのんびりするのが好きだ。』と主張しても、A型の性格類型である『几帳面・生真面目・努力家・集団適応型』に強引に当て嵌めていこうとする傾向がありますが、その主張を支える根拠が『恣意的なグループ分けによる統計学的有意差』*1しかないのであれば、科学的な性格診断とは言い難いという事になると思います。

『現実の人間の行動や思考の傾向を説明できない矛盾=再現性のない仮説』と合わせて、科学的な性格診断と断定的に主張することには問題がある事になるでしょう。
血液型には、ABO式血液型以外にも、Rh式、MN式、E式、S式、T式、Rh−Hr式、ルセラン式、ケル‐セラノ式、ルウィス式など多くのものがあるが、何故、性格に関連するのはABO式だけなのだろうか?

血液型診断は、日常の楽しいコミュニケーションや話題作りに用いられるなら擬似科学であっても社会的弊害はないのですが、特定の血液型に対する集団的な圧力や不当な待遇、子ども達の差別意識の助長があるのならば社会的弊害が甚だしいものとなりますね。
また子どもの頃に、正しい知識として思い込んでしまうと、その知識が固定観念や先入見となって、後で訂正修正することが難しくなるという問題もあります。


ABO式血液型は、1901年にウィーン大学のK・ラントシュタイナーによって発見されたもので、赤血球表面に付着している抗原である糖鎖(ラクト系スフィンゴ糖脂質)と血清中の抗体によって決定されます。
A型の血清には抗B抗体、B型の血清には抗A抗体、O型の血清には抗A抗体と抗B抗体、AB型の血清にはそれらの抗体が含まれて居ないという特徴があります。

糖には、フコース、グルコースブドウ糖)、N−アセチルグルコサミン、ガラクトースなどいろいろな種類がありますが、血液型によって赤血球に付着している糖の配列が異なっているのです。
A型には、A型とO型の糖鎖があり、B型にはB型とO型の糖鎖があり、AB型にはA,B,O全ての糖鎖があり、O型にはO型の糖鎖のみがあります。O型にあるH抗原と呼ばれる糖鎖はどの血液型にも見られます。

血液型の分類に関わる糖鎖は、自己と非自己を区別する免疫系の機能にも関係していて、細菌・ウイルス感染時の免疫的対処をする際には異物(非自己)の認識の指標にもなります。
現代の生命科学における糖鎖の研究は、発生分化・老化・病理・感染などの生命現象を解明するものとして注目されており、ガン化した細胞で糖鎖構造が変化することなどからガンの診断治療への貢献も考えられます。

ウイルス感染や細菌感染と糖鎖について
産業技術総合研究所 糖鎖工学研究センター
http://unit.aist.go.jp/rcg/rcg-gf/
のサイトが色々専門的に詳細な説明をしています。

*1:調査対象を増やして、検定回数を増やすと、χ二乗検定で計算される“危険率(有意水準)”が高くなり、その結果として実際には有意な差異がないのに、統計的には有意な差異があるとする誤謬が起こります。統計学において、タイプ1エラーと呼ばれる現象です。自分が欲しいと思っている『有意差のあるデータ』が得られるまで、調査の対象とする集団を年齢・性別・職業・地域など色んな基準でグループ分けして何度も検定を繰り返せば何処かで欲しいと思っている有意差のあるデータが得られる可能性がありますが、それは現実の現象を説明する根拠となるデータにはなりません。