あびる優の窃盗行為のカミングアウトと放送倫理:ライブドア対フジテレビの経済問題


万引き告白:女性タレントを聴取 警視庁、処分検討――毎日新聞



日本テレビ系のバラエティー番組で、女性タレント(18)の窃盗行為をクイズの題材にしていた問題で、警視庁少年事件課がタレントから窃盗容疑で事情聴取していたことが分かった。調べに対し、タレントは容疑を認めているといい、警視庁は児童相談所への通告も含め検討している。

タレントが窃盗行為を告白したのは15日深夜に放送された「カミングダウト」。出演者が告白した内容の真偽を当てるクイズ形式の番組で、タレントは、「本当の話」として過去に倉庫から商品を段ボールごと盗んだと告白した。視聴者から抗議が相次ぎ、所属事務所のホリプロは、タレント活動を自粛させている。


2月15日に放送された『カミングダウト』という自分の過去の重大事件やハプニングを告白するクイズ番組で、女性タレントあびる優が告白した集団窃盗の衝撃告白がインターネットの掲示板やブログ界隈で大きく取り沙汰されています。
集団強盗という表記が日本テレビのウェブサイトや各種ブログで為されていることもありますが、告白内容からするとニュース報道通り窃盗行為であるようです。
暴力行為で強引に他人の金品を奪取したり、威圧や脅迫によって盗み取る強盗罪と他人の目を盗んで財物を掠め取る窃盗罪は、その犯罪行為の内容が異なりますが、窃盗よりも強盗という言葉を使ったほうがよりセンセーショナルで世間を驚かせる衝撃性が強いという事で日本テレビ側は“強盗”という表記を選んだのでしょうか。

いずれにしても、窃盗という犯罪行為を面白おかしく笑い話として取り上げる事に対する倫理判断の欠如と一般常識の麻痺が、10代のあびる優だけではなく、30代以上の年齢的に十分な善悪の分別がついていて然るべき世代の関係者にまで見られるというのは憂慮すべき深刻な事態でしょう。
撮り直しの効かないリアルタイムの生放送ではなく、幾らでも編集や改変が出来る収録放送であるのに、何故、事前に法的・倫理的に問題のある告白部分を削除しなかったのかは芸能界やテレビ業界の外部の人間の常識感覚からは計り知れない部分があります。

日本テレビの番組制作者、ホリプロ社員、番組出演者、あびる優本人の全ての倫理判断能力や遵法精神が麻痺していたか、若しくは、(あびる優の年齢を考慮せずつい数年前の窃盗であるのに)過去の犯罪であればそれほど真剣に問題視する視聴者や警察関係者は現れないだろうと根拠皆無な楽観をしていたのか分かりませんが、数多くの関係者が協力して作り上げる番組制作の場において、正常な倫理感覚に基づく適切な判断・指示を出せる人材が一人もいなかったというのは残念であり、今後の娯楽番組制作において同じ轍を踏まないかと心配でもあります。

ライブドア堀江貴文社長が、ニッポン放送株を時間外取引きで大量取得して、フジテレビの実質的な経営権を獲得しようとしていることに対する懸念として、『新興ベンチャー企業が、マスメディアを支配する事によって放送の公共性や公益性が毀損される』といった批判がありましたが、こういった放送内容に関する不祥事が頻発することからは、現在の民放各社に確固たる公共性についての崇高な理念や報道のビジョンが存在するとは到底信じられないという事も言えると思います。

アミューズメントの要素を重視した娯楽番組はいい加減な部分もあるが、ジャーナリズムに基づいた報道ニュース番組には、崇高な理念があり、国内外の事実を視聴者に伝えようとする使命感を強く持っているという言い分にも一定の理解は示したいと思います。
しかし、若年世代の価値観や倫理観に無視できない大きな影響力を持つテレビの娯楽番組やエンターテイメントをいい加減に作ってよいというわけではなく、最低限の公共性や有害性への配慮を働かせて面白い番組を制作していく責務がテレビ局や芸能人にはあるのではないでしょうか。

ライブドアフジサンケイグループの対立の場は、ニッポン放送による新株予約権発行の対応策を受けて、市場経済から司法判断へと移されるようです。
リーマン・ブラザーズと組んだライブドアM&A(企業の合併・買収)の問題の本質は、放送の公共性や公益性といった視聴者が真実を知る権利や情報受信によって得る利益にまつわるものというよりも、TOB(株式公開買付)によらない時間外取引M&Aを主な対象にした株式市場のルール再編とコーポレイト・ガバナンスの将来像に関するものではないかと考えています。
もっと砕けて言えば、ライブドアのような新興勢力が正攻法ではない奇襲攻撃や予想外の行動によって、経済界の既成秩序を構成している旧勢力(伝統と歴史のある大企業)を買収して経営の主導権を握ろうとする事を、どう考えるのかという事です。

現在の伝統ある大企業による秩序を維持する為に経済制度を改変して予測困難な株式取引を規制するのか、それとも自由競争原理の流れの中のパラダイム・シフトと捉えて、段階的に経済取引の規制や障壁を取り除いていくのかといった事になってきますが、外資参入の障壁を低くすると、自己資本比率の低い企業が軒並み外資によるM&Aの危険に晒される恐れがあるなど難しい問題だと思います。
透明性と公平性に劣る時間外取引きが主となり頻繁に企業の合併や買収が行われ、マネーゲームとしてM&A拡大が起こるのは、日本経済にとっても大部分の個別企業にとっても余り好ましいものではないと考えられますので、透明性や公平性が確保された新たな株式取引のルール作りが求められる事になるでしょう。
法務省の見解では、現在の株主の利益を損ねる明らかに敵対的なM&Aに対しては対抗策を取れるように会社定款を変更できるようにすべきとしていますが、完全な自由競争による企業の所有権・経営権の奪い合いの弊害を考えると一定のルールに基づいた対抗策の必要はあるように思えます。

また、ニッポン放送とフジテレビ側が、ライブドアの買収に対してとった総額158億円新株予約権発行の緊急対抗措置も、商法の規定に対する違法性が指摘される際どい対抗策であり、株式会社の所有権が株主にあるという前提を覆すものでもありますね。
今後、ライブドア側の新株予約権発行の差し止めに関する提訴に対して、東京地裁がどのような司法判断を下すのか注目したいところです。


ライブドア対フジテレビの株式取引と経済問題の話に脱線して、あびる優のカミングアウトと自己顕示欲や承認欲求に関する青年期の心理について十分に述べることが出来ませんでした。また、機会があれば、あびる優の話題から離れて青年期の心理問題についても詳述したいと思います。