ノーベル生理学・医学賞の記事と情報伝達物質の受容と影響


ノーベル生理学・医学賞に米アクセル教授とバック博士
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041004-00000011-yom-int


スウェーデンカロリンスカ研究所は4日、2004年のノーベル生理学・医学賞を米コロンビア大のリチャード・アクセル教授(58)と米フレッド・ハッチンソンがん研究センターのリンダ・B・バック博士(57)に授与すると発表した。

 授賞理由は「におい受容体と嗅覚システムの発見」。

 自然科学分野での女性の受賞は95年以来。賞金1千万スウェーデン・クローナ(約1億5000万円)は2人で分ける。授賞式は12月10日にストックホルムで行われる。

 哺乳(ほにゅう)動物が、一万を超えるにおいをどのように認識し、思い出すことができるのか、嗅覚(きゅうかく)は感覚の中で最も未解明な分野だった。2人は、この嗅覚の基本的な仕組みを、分子レベルで解き明かした。

 2人は、マウスを使い、鼻の中には、においを感じる受容体が千種類もあることを突き止め、1991年に共同発表。受容体の遺伝子の数は、全遺伝子の約3%も占める大きなグループを形成していた。

 におい物質が鼻に入ると、鼻腔の奥に並んだ嗅細胞がにおいをキャッチする。千種類もある受容体だが、1つの嗅細胞には1種類の受容体しか作られていないことを2人は別々に発見。1つの受容体は、限られた数種類のにおい物質に反応することから、1つの嗅細胞は少数のにおい物質の感知を担っている。

 においを感じた嗅細胞は、同じ受容体を持つ細胞ごとに、大脳の下部にある嗅球の「糸球」に情報を集める。バック博士はこの情報が大脳の別の部位へ伝えられ、このパターンでにおいが認識され、記憶されることも発見した。人間でも嗅覚の受容体の遺伝子は約350個見つかっている。

 ●リチャード・アクセル教授 米ジョンズ・ホプキンス大で医学博士号取得。99年からコロンビア大教授。ハワード・ヒューズ医学研究所研究員を併任。

 ●リンダ・B・バック博士 米テキサス州立大で免疫学博士号取得。ハーバード大教授などを経て02年からフレッド・ハッチンソンがん研究センター部長。


高校の生物で、感覚器官とその知覚メカニズムについて大雑把にその仕組みを習うが、確かに嗅覚がどのようにしてにおいを知覚して無数にある種類のにおいを識別するのかについての説明は曖昧模糊としていて説明がなかった。私の記憶では、鼻の鼻腔の奥には嗅細胞というものがあり、そこににおい分子が付着すれば嗅覚神経を介して大脳に電気刺激(インパルス)で情報が伝えられるという説明があっただけだったように思う。

人間の感覚知覚や感情・気分、思考能力・意欲といった『心的機能・精神機能』が、神経伝達物質とそれを受け止める受容体によって成り立っているとするのが最新の生理学を踏まえた神経科学や精神医学の知見である。
また、大部分の薬剤・医薬品の作用機序もその薬剤の成分である化学物質が生体の受容体と結合することで効果を発揮する。

うつ病治療薬の抗うつ剤などはその典型的なもので、三環系抗うつ薬四環抗うつ薬、SSRI、SNRIといった数多くの種類があるが、それらの作用機序は『脳内の気分や意欲の活発性を左右する神経伝達物質であるセロトニンノルアドレナリンシナプス結合をしているニューロン神経細胞)終端に取り込まれることを阻害すること』で憂鬱感や意欲の減退、思考力の低下に効果を発揮するのだ。

人間が外界を知覚して認識する事には化学物質の受容が原因となっているし、心的機能である歓喜や悲哀の感情が生じ、やる気、抑うつ感といった気分の変動を感じたりする時にも化学物質(情報伝達物質)の受容が引き金となっている。
ただ、ここで勘違いしてはいけないのは、化学物質の分泌と受容の増減によって心理状態の全てが決定するという決定論は明らかに間違っているという事である。つまり、薬剤のみによって人間は幸福や喜びを手に入れられるとするような薬物依存的な短絡思考というか化学偏向思考に陥ってはいけないということです。
化学物質の増減は遺伝的な素因によって完全に決定されているわけではなく、自分のおかれている生活状況や人間関係、生育過程(家族関係)、トラウマ的な出来事と記憶などの環境要因に大きく関係していて、更には価値観や物事の考え方・認識の仕方といった『認知傾向』に大きく影響されます。
それらの意味するところは、自分の考え方や思考方法、価値観を意識的にモニタリング(査定・監査)して良い気分や感情を持てる認知へと変革していくことで抑うつ感や意欲の低退、悲しみを和らげていくことが可能であるという事です。

これらは、アーロン・ベックが提唱した抑うつ感を形成する自動思考を克服する『うつ病認知療法』につながっていくものでもあります。
認知療法は、心理療法の中では唯一薬物療法に匹敵するような科学的根拠(統計学的データ・実証性)のある療法であり、またカウンセリングで実施する以外にも、自分自身で実行できる手軽さが魅力のセルフコントロール法でもあります。

参考文献として

うつ病認知療法 認知療法シリーズ』 アーロン・ベック ISBN:4753392058
『いやな気分よ、さようなら ―自分で学ぶ抑うつ克服法』 デビッド・D・バーンズ ISBN:4791102061

などが認知療法の概略と実際を比較的よくまとめている良書だと思います。エビデンスベースドな臨床心理学を勉強したい方などにも認知療法認知行動療法関係の書籍は目を通しておくといいかもしれません。

あっ、嗅覚のメカニズムについて書こうとしていたのに、大幅に認知療法抑うつ感の形成過程の話にずれこんでしまいました・・・。