シーパワーとランドパワーの外交戦略特性

前回は、シーパワーである日本が重視すべき交通路について書きましたが、今回は海洋国家と陸上国家の外交方略の特徴について大雑把に考えてみます。
ランドパワー(陸上国家)とは、海から切り離された大陸内部や半島内部、砂漠地帯、山岳地帯を生活拠点として、土地を何にも勝る財産として、より多くの土地を所有する事が国家民族の繁栄の為に最も大切であると考える傾向があります。その為、領土拡張の為の侵略戦争や領土防衛の為の防衛戦争を行う頻度が高く、どちらかといえば海洋国家に比べて好戦的な性格を有します。

陸上国家の典型的な国家としては、ソ連(現ロシアもチェチェン紛争北方領土問題を例にその領土重視の性格を色濃く残します)、ナチスドイツ(近代のハプスブルク家支配のオーストリアハンガリー二重帝国や近代のプロイセン)、中国(元、清、中華人民共和国)などがあります。
歴史を遡ってみれば、古代エジプト王国、古代ギリシアのスパルタ、古代ペルシャ帝国、アレキサンダー大王のマケドニアイスラム王朝などもランドパワー(陸上国家)の基本的性格を備えた国家だと言えるでしょう。


第二次世界大戦中のナチスドイツのホロコーストや残虐行為、ランドパワープロイセン王国憲法条文や政治制度を参考にした大日本帝国の熾烈な植民地支配、モンゴル帝国の残忍な拷問や大量虐殺による厳しい支配、勇猛果敢なスパルタの兵士による容赦のない残酷な戦闘などに見られるようにランドパワーの基本的性格は、残酷な攻撃性・専制的支配・領土拡大傾向にあります。
ランドパワーの侵略指向は、幾つもの国が国境を接していて、いつ隣国から攻撃や侵略を受けるか分からない緊張した状態に置かれている事と、食物の宝庫である海から隔絶している為に十分な食糧確保が難しい事によって生まれたと推測できます。
海に囲まれている国家では、海が『天然の城壁・自然の要衝』として、他国からの攻撃や侵略を困難にしてくれます。また、わざわざ自国の側から海を越えて他国を軍事的に制圧しても、その植民地を維持して発展させていくには膨大なコストがかかります。
それは、日本が華北に傀儡皇帝の満州国を建設し、朝鮮を植民地化しても実際的な経済的利益や政治的優位に全くつなげることが出来なかった事からも明らかでしょう。

日本は元々シーパワー(海洋国家)なのですが、明治維新の時代に、ヨーロッパの陸上国家の中でもとりたてて厳格な立憲君主体制をとっていたプロイセンプロシア)を模範として、その憲法や政治制度をまねたことと当時の帝国主義国家に取り囲まれた危急存亡の国際情勢の為にランドパワー的な軍事力による積極外交を行い戦争に突入しました。
陸上国家の侵略指向の根底には、『自国が侵略される恐怖と不安』がありますが、幕末〜敗戦までの日本にも絶えず『帝国主義列強から植民地化される恐怖と不安』を抱えていた背景があります。
ホッブズが『リヴァイサン』の中で言う『万人の万人に対する闘争』状態は、正に法の秩序が及ばない無秩序状態の中で巻き起こってきます。

法治国家の内部で、法の権威と秩序が行き渡り、国民が法治の必要性を十分に理解している場合には、現在の先進国内部のように『万人の万人に対する闘争』状態は起こらないのですが、極端に貧富の格差が開いてきたり、治安が悪化して検挙率が下がり犯罪をやったもん勝ちの状態になってしまうと法治国家の秩序は次第に崩壊して万人闘争の血なまぐさい凄惨な状況に陥ってしまいます。

シーパワー(海洋国家)は、その生活拠点を大陸の周縁部や島嶼部に置いて、領土・土地の拡大よりも交易貿易による経済的繁栄を重視する傾向があります。
ランドパワー集団主義的な保守体制をとりやすいのに対して、シーパワーは個人主義的な革新体制をとりやすく、進歩的かつ開明的な雰囲気に覆われています。
シーパワーの代表的なものとして、古代ギリシアアテネや地中海周辺に散らばるシラクサなどの小国、ローマ帝国に敗れた海洋貿易の民フェニキア人の国カルタゴ、中国の南宋や呉など華南政権、大英帝国は領土拡大政策で植民地を世界に広げましたがイギリスも基本的に貿易重視の海洋国家です。*1





 

*1:イギリスは自国で生産した商品を販売する貿易市場拡大のために世界に植民地を増やし続けました。