アレルギーと免疫系

アレルギーという言葉は、ギリシャ語の『奇妙な・風変わりな』という意味の『アロス』という単語と、『機能・反応』を意味する『エルゴン』という単語を組み合わせて作られ、それをドイツ語風に『アレルギー』と読むようになったものです。
アレルギーという言葉は、1906年にオーストリアの小児科医ピルケによって造語されたと言われています。

アレルギーとは簡単に言えば、自己防衛システムとしての免疫系の暴走状態(過剰反応)を意味します。
免疫系とは、自己と非自己を区別して、身体に侵入した有害性や毒性を持つ異物を排除しようとする自己防衛システムのことです。
アレルギーは、本来、有害でなく毒性もない抗原(異物)に対して大量の抗体(IgE:免疫グロブリンE)を産生してしまい、その抗体が抗原や肥満細胞と結合して激しい抗原抗体反応が起き、身体に有害な化学物質であるヒスタミンやロイコトリエンなどを出すことによって発生します。
免疫グロブリンには、A・M・G・D・Eの5種類がありますが、その中で主要なアレルギー反応を起こすものは『E』です。

ロイコトリエンという化学伝達物質は、気管支のアレルギーに強く関与している物質で、マスト細胞や好酸球,好塩基球という免疫機能を持つ細胞の中で主にロイコトリエン(特にC4, D4という種類のもの)が産生して気管支喘息アレルギー性鼻炎の元となる組織の腫脹や炎症を引き起こします。
また、ロイコトリエンは、元々、細胞膜にある脂質であるアラキドン酸という脂質で無害なものなのですが、そのアラキドン酸が酵素の働きによって有害なロイコトリエン(酵素リポキシゲナーゼの作用)になったり、プロスタグランジン(酵素・シクロオキシゲナーゼの作用)になったりするのです。
ロイコトリエンやプロスタグランジンは、脂質由来の化学物質なので『脂質メディエーター』と呼ばれます。

また、プロスタグランジンというのは脳の中枢神経系(プロスタグランジンは発熱中枢のインターロイキンによって産生される)に働きかけて発熱の原因にもなる物質として有名です。薬局で市販されているアスピリンが入っているような解熱鎮痛剤の作用機序も、プロスタグランジンを産生する酵素・シクロオキシゲナーゼの作用を抑制するというものです。

ヒスタミンというのは、アレルギー反応のかゆみを引き起こす代表的な化学物質で、肥満細胞(マスト細胞)や好塩基球の内部に蓄積されています。

何がアレルギー反応を引き起こす抗原になるのかは正に人それぞれで、代表的なものとしては特異的な蛋白質(食品アレルギー)、細菌、真菌、ウイルス、花粉、ダニ、ハウスダスト、動物の毛、化学薬剤、抗生物質などがあります。侵入経路としては、皮膚表面、皮膚表面の傷口、呼吸によって異物が到達する肺、食物が入る胃、小腸、大腸などの経路があります。
アレルギー反応を引き起こす抗原を総称してアレルゲンといいます。ストレスを引き起こす有害な外的刺激や状況をストレッサーと呼ぶのと同じ関係にありますね。

免疫システムには、白血球やリンパ球によって直接的に抗原・異物を捕食したり排除したりする『自然免疫』と、まずその抗原に対する抗体を作って次の侵入時からその抗体を結合させて抗原を排除する抗原抗体反応を利用した『獲得免疫』があります。アレルギー反応を起こす免疫は、後者の獲得免疫ということになります。
また、『液性免疫』と『細胞性免疫』といった分類もできます。


アレルギーには、Ⅰ〜Ⅳ型までの種類があり、それぞれの症状と病態の特徴は以下の通りです。

  • Ⅰ型アレルギー(即時型アレルギー)・・・一般的にアレルギー疾患と呼ばれるものの殆どがこのIgE抗体の過剰産生が関与するこのⅠ型アレルギーに含まれます。発現機序は、抗原に対する抗体を大量に作ってしまい、抗原を排除しようとする抗原抗体反応を起こして、その過程で有害な化学物質であるかゆみ物質ヒスタミンや炎症物質ロイコトリエンなどを出してしまう事です。

Ⅰ型アレルギーには、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息アナフィラキシーショック(急速かつ重篤な命に関わる急性アレルギー反応)といったアレルギー疾患があります。

  • Ⅱ型アレルギー(自己免疫疾患・異常)・・・タイプの異なる血液を輸血すると、その赤血球を異物と認識して攻撃し、溶血反応を起こす『異型輸血反応』や免疫系の異常によって自分自身の赤血球が崩壊してしまう『自己免疫性溶血性貧血』などがあります。
  • Ⅲ型アレルギー(自己免疫疾患・異常)・・・ジフテリア狂犬病などの際の血清治療の副作用として起こるアレルギー反応で稀なものです。病態としては、血清病、慢性関節リウマチなどがあります。
  • Ⅳ型アレルギー(遅延型アレルギー・薬剤に対する過敏反応)・・・外部から侵入したアレルゲンを認識したTh1細胞(ヘルパーT1細胞)から、白血球やリンパ球といった免疫細胞を呼び寄せる働きをする物質が放出され、それによって免疫細胞が過剰に集まると発赤・浮腫・腫脹・発熱などの症状を引き起こす。ツベルクリン反応などはⅣ型アレルギーを利用している。病態としては接触過敏症などがある。

有害有毒な異物・外敵の侵入を防止する免疫システムは、主に血液中の白血球によって支えられています。白血球というのは、単一の細胞を意味する言葉ではなくて、白血球には幾つもの種類があり、様々な役割を分担しています。白血球は、顆粒球とリンパ球,単球に大別することができ、顆粒球には更に好中球、好酸球、好塩基球の3種類があります。

人体に侵入した有害なウイルスや細菌を食い殺す免疫細胞(白血球)として、『マクロファージ』と『顆粒球』があります。顆粒球はその数が増えすぎると過敏な皮膚状態などアレルギー疾患を作る原因になるとも言われています。
しかし、マクロファージや顆粒球はそれほど強力ではないので、食い殺せないウイルスや細菌などが出てきます。
そこで、白血球の一種であるリンパ球の力を借りることになります。リンパ球には、T細胞とB細胞があります。T細胞には、ヘルパーT1細胞(Th1)とヘルパーT2細胞(Th2)があり、免疫系全体の機能を調節して指令を出す役割を担っています。T細胞は、B細胞に抗体産生の命令を出したり、病原菌に冒された感染細胞を攻撃し、ウイルスの繁殖を抑える働きもします。B細胞は、それぞれの抗原(アレルゲン)を殺す為の専用の武器である抗体の蛋白質を産生する細胞です。*1

アレルギー反応とは、人体に侵入した無害な異物(ダニの死骸・花粉・ハウスダスト・カビ・蛋白質など)に対してIgEを大量に作るようにT細胞がB細胞に指令を出すところから始まります。
大量に作られたIgE抗体は、鼻腔粘膜、皮膚組織、気道内部で肥満細胞(マスト細胞)と結合します。
その状態で、再びアレルゲンである異物が侵入してくると、マスト細胞に結合したIgEがその場で抗原抗体反応を起こして、マスト細胞はその刺激によってヒスタミン、ロイコトリエンなどのアレルギーを引き起こす原因となる化学伝達物質を次々に放出していきます。
この混乱状態の中で、好酸球という白血球も有害な化学伝達物質を放出するようになり、ますますアレルギー疾患が悪くなっていくということになります。

現代社会で生活する現代人には、環境汚染や食品添加物、精神的ストレスなどの影響によって免疫機能の低下や異常が急速に進行しています。日本人では約70%の人が何らかの免疫異常=アレルギーを持っているという調査結果があり、免疫疾患は現代病の中でも極めて深刻な問題と言えます。
しかし、免疫疾患には確立した医学による根本的治療法はないのが現状なので、漢方などで体質改善を気長に行うか、食生活の改善と適度な運動、アレルゲンの排除など生活習慣の見直しを進めて、十分な睡眠と休息を取ってストレスを溜めないなどの対処しかありません。

*1:恐ろしい性感染症として名高いHIVウイルスによるエイズ(後天性ヒト免疫不全症候群)という疾患は、HIVウイルスが免疫システムの司令塔であるT細胞に付着・感染し、破壊してしまうことで人間の免疫システム全体を崩壊させてしまう病気です。エイズになると、エイズウイルスそのものによって苦しんだり死んだりするのではなく、T細胞死滅による免疫機能の喪失によって、有害なウイルスや細胞に対する抵抗力を失って様々な感染症に罹患してしまうという事です。