サリドマイドの個人輸入急増。薬害多発国の日本。

Yahoo!ニュース−社会−毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041010-00000014-mai-soci


1950〜60年代にかけて世界的に薬害を起こした鎮静・催眠剤サリドマイド」が、がんなどの治療目的で日本に個人輸入されている問題で、03年度の輸入量が53万錠に上っていたことが、厚生労働省の調べで分かった。実効性のある安全対策が講じられていない中、02年度より9万錠余り増加した。サリドマイド薬害の被害者団体は「国の取り組みが遅い」と不満をあらわにしている。
 同省医薬食品局がサリドマイド個人輸入した医師に出した証明書(薬監証明)に基づき集計したところ、03年度の総輸入量は53万958錠。剤型別では、最も大きい200ミリグラム錠が昨年の9倍に当たる2454錠に上り、最小の25ミリグラムは昨年より7300錠少ない1万1200錠だった。薬事法は販売目的でなければ、医師が未承認の医薬品を個人輸入することを認めている。
 サリドマイドは服用した妊婦から手足が極端に短い子が生まれるなどしたため、日本でも62年に販売が禁止された。だが、90年代後半から骨髄のがん、骨髄腫などへの効果を認める研究が報告されるようになり、個人輸入が増加している。

催眠導入剤が奇形児を生み出すという意識を普及させてしまった悲劇の薬害事件として『サリドマイド薬害』はあまりに有名です。
日本の薬害事件には、患者の生命を無視した医療政策を進めた安倍英の裁判や小林よしのりの『正義論』、相次ぐテレビ報道などであまりにも有名になった血液製剤による『薬害エイズ』、整腸剤のキノホルムによる『スモン薬害・非特異性脳脊髄膜炎症(Subacute Myelo-Optico Neuropathy:SMON)』、血液製剤フィブリノゲン』による『薬害C型肝炎』などがあります。

戦後の厚生労働省による無責任な医薬品認可がまず薬害の第一原因として考えられます。そして、サリドマイド薬害エイズに典型的に見られた遅すぎる行政の対応と利益至上主義で患者の健康への配慮が低かった(一部の)製薬会社には激しい憤りと軽蔑を覚えます。
とりあえず認可されている薬剤だから重篤な副作用の心配はないだろうといった人間のいい加減さや毎日繰り返される診療・治療の馴れによる弛緩、自分と直接関わりのない人たち(患者)に対する思いやりの無さ、医薬品認可という生命に関わる重要な業務に携わっているという厚生官僚の自覚の低さに、人間の冷淡なエゴイズムや繰り返される日常に埋没してしまった結果としての無責任さを感じます。

サリドマイドは商品名『コンテルガン(ドイツ)』『イソミン(日本)』『プロバンM(日本)』として、副作用の少ない安全性の高い睡眠薬・鎮静剤として販売されたもので、皮肉にも、胃腸薬で鎮静作用のあった『プロバンM』は当時、つわりに苦しむ妊婦によく処方されていたと言われます。
しかも、西ドイツの追加治験で催奇形性などの重い副作用が明らかになり諸外国が回収措置をとっているのに、日本だけ何故かその国際的なサリドマイド回収の流れに乗らずにその後半年近くも(おそらく危険性を承知して、あるいは危険性を軽く見積もって)漫然と販売され続けたのです。こういったところに行政の怠慢というか国民の生命軽視の恐ろしさを垣間見る気がします。

サリドマイドの恐るべき副作用は初期妊婦において顕著に働き、胎児に四肢欠損・四肢障害の奇形や聴覚障害を引き起こします。
俗称としてアザラシ症と言われる奇形*1ので、手足が極端に短い為に通常の日常生活や職業生活を送ることは事実上不可能です。日本においてサリドマイド奇形児は、約300人出生したと記録されています。その後のサリドマイド奇形の人を追った研究は、人権上の問題や配慮などがあり殆ど存在していませんので、その後、どのように成長したのか、障害の重症化で生命に危機が及んだのかなど詳細は不明の部分が多いです。

現在、まだサリドマイドの奇形を背負って必死に生きている方たちが少なからず存在していることを考えると、個人輸入*2で骨髄腫治療の為にサリドマイドを輸入している医師たちは絶対に過去の災厄を繰り返すようなことはしてはなりません。

戦後の薬害の原点であるサリドマイド事件を私達は歴史の彼方に埋没させることなく、今後の教訓として薬害を防いでいかなければなりません。特に、医療行政に携わる厚生労働省の官僚の方々、薬品の開発・研究を行い、安全性を確認する治験を行う製薬会社の人たち、実際に患者に薬剤を処方する臨床医たちには、サリドマイドの悲劇を忘れないでいて欲しいですね。

しかし、このニュース記事の後半に恐ろしい内容が書かれていますね・・・。


同省は02年に初めてサリドマイド個人輸入量を集計したところ、01年度は15万錠余に上ることが判明。使用を誤れば薬害が再発する恐れがあるため、同年10月に坂口力・前厚生労働相が「早急に調査し、対応を考えたい」と約束した。昨年9月に同省研究班が調査結果をまとめ、飲み残しのサリドマイドが未回収だったり、妊娠の有無を確認せずに処方している医師がいたことが分かった。
 昨年度の輸入量が50万錠を超えたことに対し、被害者らで作る財団法人「いしずえ(サリドマイド福祉センター)」の間宮清事務局長は「輸入量だけでなく、大きい錠剤の輸入が急増したことが気になる。坂口前厚労相の約束から2年たつが、いまだに実効性のある安全対策は取られているとは言えない。国レベルの規制が必要」と訴えている。

妊娠の有無を確認せずにサリドマイドを処方する医師というのは、まず薬学の基本を理解できていない可能性が高く、人命に対する尊重や配慮が全く無いという意味で医師の資質そのものを疑わねばならないでしょう。
厚生労働省は、『手遅れになってから対応に取り掛かる腰の重すぎる体質』をとにかく改善しなくちゃ話にならないです。

*1:ハンブルク大学のW・レンツがあざらし状奇形『フォコメリア』と呼称した。

*2:当然の事であるが、現在、サリドマイド製造国・承認国は少なく日本で輸入可能なのは殆どブラジルである。