郵政三事業民営化の妥協的着地点

郵政事業とは、『郵便事業』『郵便貯金』『簡易保険』の三事業からなり、物流サービス業の郵便事業と窓口ネットワーク、公的な金融事業の郵便貯金、簡易保険の二つに大きく分けられる。

物流サービス業としての郵政公社のネットワークは、全国津々浦々まで広がっており、他の民間の運送業や郵送業とは比較にならない巨大なもので、その分、利益には繋がらない過疎地域の局が多いという特徴がある。
しかし、郵便事業は、全国一律に同程度の質の高いサービスが受けられるということが前提であり、郵便にまつわる国際条約のようなものでも全国一律サービスを原則として求めているようである。
その為、3事業を独立して民営化する際の郵便事業の問題点は、そうした利潤追求の企業として足枷になるが切り捨てること出来ない部分をどのように他の事業や部門で挽回できるか、どれだけ効率的な組織として改革できるかが最大の課題となってくるのではないだろうか。
現在あるクロネコヤマトのような民間の郵送配達のサービス業は、郵政公社のように従業員を配置した出先機関を地方の隅々まで設けずに物資の集積地点としてコンビニなどの他企業の店舗を利用して経費を削っているが、過疎地域でコンビニやスーパーが短時間でアクセスできる圏内にない地域ではそういった経費節減策を取ることが出来ない事も厳しい条件である。
いずれにしても、大規模なリストラによる人員整理を行わずに、これから大幅な増収など見込めない郵便事業のみで独立採算を取ることは至難であるように思える。
それを見越しての事なのか、竹中平蔵大臣は各事業への適正な資源分配をしての段階的な民営化路線を示唆していたりする。

以上が、郵便事業にまつわる問題点についてであるが、最も大きな郵政事業民営化の目的は、巨大な郵貯簡保の資金を公的部門から民間部門に移行させることである。公的部門に資金が偏在していることの弊害は、正常な金融市場機能の失調や資金循環の停滞といった形で表れてくることになる。

つまり、総額約350兆円にも上る肥大化した郵便貯金と簡易保険が官製金融機関として民間を圧迫している事態を改善することを目的としている。更に憂慮すべき事柄は、国民の巨大な資産である郵便関連の資金が民間部門の企業への融資に全く回らずに、国債、地方債等の公的部門に投入されている。実に郵便貯金と簡易保険の98%が国債投資されている事を考えると、郵便関連の資金は正に止め処なく濫発され拡大される国債の安定的な受け皿としてしか機能していないのである。

既に公的な役目が終わったとされる郵貯簡保が官製金融機関として、全く民間投資への資金流入に役立てられる事なく国債消化装置として資金停滞を招いているのは大きな問題なのだが、小泉政権郵貯簡保の規模縮小についての積極的な政策立案には弱腰で全くやる気を見せていない。

財政再建への意志が見せかけのポーズに過ぎず、これからも国債濫発を止める気がないから郵貯簡保は原則このままの規模で残存させるという考えであるのならば、これは小泉首相が政権把握時から公約として掲げていた郵政事業民営化の挫折を意味する由々しき事態と言えるのではないだろうか。
郵政事業民営化の最終形態は4つの持ち株会社、『窓口ネットワーク』『郵便事業』『郵便貯金』『郵便保険』であるとされ、2007年4月に実現される見込みだが、財政規律の取り戻しの為の国債発行額減少と合わさった形で郵貯簡保の規模が縮小されなければ本来の金融構造改革的な郵政民営化の意味の大半は失われてしまうであろう。

どのような地点に郵政事業民営化が落ち着くのか、大きな憂慮と懸念を抱えている。