IMF(国際通貨基金)誕生とブレトンウッズ体制の崩壊

開発途上国への資金援助や新興市場国への政策助言などをして世界の経済状況を安定化させ調整しようとするIMFInternational Monetary Fund国際通貨基金)の経済介入政策の問題点については、id:cosmo_sophy:20041003に触れましたが、今回はIMF誕生の経緯と国際通貨制度の歴史について見てみます。

IMFというアメリカの政治的影響の強い機関は、1944年に米国ニューハンプシャー州ブレトン・ウッズで開催された連合国の国際会議の場において設立する運びとなりました。その際に、国際復興開発銀行(IBRD)、GATT(関税・貿易に関する一般協定)の創設も合意されました。
そのブレトン・ウッズで開かれた第二次世界大戦後の国際通貨体制を話し合う連合国の国際通貨会議の場において、IMF設立協定が調印され、実際に設立されたのは1946年3月です。

IMF協定に記載されたIMFの設立目的とは、『戦争によって混乱した国際通貨制度の再構築を成し遂げ、自由貿易を発展させる為に安定した為替相場を維持すること』と世界経済の安定化の為の経済調整政策の実行です。経済調整政策は、IMF加盟国の中で著しい国際収支不均衡に陥った赤字国や途上国の是正の為に行われ、IMF基金の一般資金を一時的にその収支不均衡の国へ融資することが出来ます。

この国際会議とIMFとIBRDの設立によって確立された国際通貨体制を『ブレトンウッズ体制(1945〜1971)』と呼び、1971年8月のニクソン・ショックに至るまでこのブレトンウッズ体制は続く事になります。
ブレトンウッズ体制の中での、国際通貨基金IMF)と国際復興開発銀行(IBRD)の役割分担は、IMFが短期的な資金援助を行い、IBRDが長期的な資金援助を行うというものです。
ブレトンウッズ体制の存在意義は、安定した為替レートを維持して、自由貿易市場経済を発展させることであり、当時の西側の資本主義・自由主義経済圏の国際通貨体制として機能しました。

また、IMF創設によって当時、圧倒的な経済力と膨大な量の金を保有していたアメリカのドルが基軸通貨として流通するようになり、ドル=金の価値が認識されて金・ドル本位制となりました。
ブレトンウッズ体制の下の『金・ドル本位制』は固定相場制であり、金1オンス=35ドルという基準が定められていてドルはいつでも金と交換可能な兌換通貨でした。つまり、金本位制が未だ機能している時代で、お金の価値が『希少金属である金との交換可能性』によって保証されていたのです。
為替相場の変動幅も平価の上下1%以内としなければならないという取り決めがあって、日本もその変動幅の中に収めて、固定相場制で『1ドル=360円』という戦後暫く続くお約束のレートにしていました。

1960年代まで、ブレトンウッズ体制の下で安定した国際通貨体制が維持されていくのですが、1960年代初頭〜1975年の長期にわたる冷戦構造下の代理戦争である『ベトナム戦争』によってアメリカは巨額の財政支出を余儀なくされます。更に、緊張する冷戦下の政治情勢の下で、ソ連を中核とする東側・共産主義圏の赤化戦略を阻む為に軍事力強化を実行したアメリカは、大幅な財政赤字国へと転落して国際為替市場での信認を弱めました。
巨大な財政赤字を抱えたアメリカは、金の準備量を遥かに越えて、ドル紙幣を大量に印刷して発行した為に、ドル紙幣を貴金属の金と交換できることを政府が保証できなくなりました。その結果、それまで通貨の価値の根拠となっていた『金・ドル本位制』*1を維持できなくなります。

その結果、1971年8月15日にニクソン大統領が、ドルと金の交換停止を発表してニクソンショックが起こり、アメリカのドルは為替市場での国際的な信認を失って大量に売却され、大幅に価値を落として大暴落しました。
このニクソンショックを持って、ドル・金本位制に基づくブレトンウッズ体制は崩壊したのです。
ブレトンウッズ体制崩壊後には、一時的にスミソニアン体制と呼ばれる固定相場制が維持されましたが、1973年には、当時の共産主義圏を除く世界の主要通貨の殆どが変動相場制へと移行しました。


世界経済が急速に一体感を強めるグローバル化の流れの中で、国際通貨システム強化と外国為替相場の安定、そして、赤字国・途上国の資金援助と経済政策指導は、IMFの重要な役割の一つとなっていますが、経済情勢を完全に予測することは不可能な為に、その役割を適切に果たす事がなかなか出来ず、逆に経済危機を招く可能性さえあるところに世界経済の調整政策のアポリアがあるとも言えます。

IMF誕生からブレトンウッズ体制崩壊の流れを追う事で、国際通貨体制の歴史をより良く理解できるようになったと思います。
19世紀イギリスのパックス・ブリタニカにおいて通貨価値の基準として採用された金本位制が崩壊して変動相場制へ移行していく世界経済の流れを見ていくと、超大国基軸通貨の価値には実は物的な根拠はなく、その大国に対する諸国の信認があるだけだと考えると何だか不思議な気もしますが、兌換紙幣を廃止した不換紙幣の管理通貨制度の下では政府発行の貨幣に対する無条件の信認がなければ経済は成り立たないという事でしょうか。

*1:中央銀行が、発行した紙幣と同額の金を常時保有して保管しており、金と紙幣との兌換を保証する制度。日本でも1897年に明治政府によって金本位制が採用され、金は貨幣価値の基準であり、また根拠でもありました。