ケインズ的政策と資本主義経済の発展度


現代のマクロな市場経済は、景気循環論に示されるような周期的に訪れる不景気・インフレ・デフレの危険と長期的観点での恐慌発生の可能性といった不安定さを抱えている。
20世紀後半の主流だったケインズ経済学は、そういった市場経済の欠点を公共事業を中心とする政府の財政支出によって切り抜けようとするものです。

ケインズが慧眼であったのは、税収が減少する厳しい不況期に敢えて政府が民間市場に財政投資をする事で財政支出以上の有効需要を生み出すことで、失業率改善など利益や市場経済の活性化を得る事が出来るという事でした。
しかし、資本主義が高度に発達して、市民生活の快適化に必要な電気・水道・ガスなどライフラインが整備され、道路・ダム・堤防・橋梁・トンネルなどの大規模投資を必要とする社会インフラ基盤が建設開発されると、政府が財政支出政策による公共投資を通して市場経済に介入するメリットや必要性は小さくなり、デメリットや無駄・不公正な利得配分が大きくなってくるという問題があり、現在の日本における根強い公共事業への抵抗と反対はその問題の現れでもあります。

国民が最早必要ないと判断している大規模公共事業を行い、国家財政の不均衡を拡大させることへの大きな不安や懸念があります。また、官主導の事業や建設は、採算を度外視したものや全く収益がみこめないアイデアの元に企画された案件が多いという実態が多く、経済活動は民間企業を主体に行うほうが経済ベースにのりやすいといえます。
公共投資をする場合に、赤字国債の大幅増額が暗黙の前提となっている現在の日本の財政状況では、やはり不必要な箱モノや巨大な社会インフラを建設し続けるべきではないでしょう。

ケインズ的政策の成功例として、第一次世界大戦後の大恐慌のデフレ不況に喘ぐアメリカで、フランクリン・ルーズベルト大統領が行ったニューディール政策が有名ですが、このニューディール政策社会保障の充実や軍人負傷者への恩給などの制度改革の側面も強く、巷間で言われるほどの劇的な経済回復効果はなかったとも言われます。
また、アメリカ経済が本格的な立ち直りを見せた最大の要因は、第二次世界大戦への参戦による挙国一致体制での軍需産業を中核とした有効需要の飛躍的増大であったと言われ、戦争を公共事業に見立てる『戦争ケインズ主義政策』という表現も為されるようです。日本でも朝鮮戦争の時に、戦争による驚異的な好景気と経済成長があり『朝鮮特需』と呼ばれました。

いずれにしても、資本主義経済の発達段階がまだ成熟していない段階で、民間セクターの経済力が弱く大規模事業に取り組めない場合や資本集約型の経済活動が必要な段階でケインズ的財政政策は最大の効果を発揮しますので、現在の日本の経済状態を活性化する方法としてケインズ的な政府支出の増額政策はあまり有効ではないと思われます。

ケインズ経済学が説く国家の財政投資による市場経済への介入に反対する代表的な経済学派を新自由主義経済学といい、その代表者にハイエクがいますが、ハイエク自由主義個人主義という思想の文脈の中でも重要な位置を占める経済学者です。
絶対不可侵な個人の自由や市場の自律性などについてまた考えてみたいですね。