薬物に関するメモ:サメの擬似科学とマリファナの違法性の問題

  • 海洋生物に関する俗説として、サメは癌に罹患しないと言われていたが、現在のサメの生態に関する観察結果からサメも癌に罹患することが判明している。

サメが癌にならないという俗説からの類推で、サメの軟骨の抽出物には抗癌作用や癌予防作用があるという擬似科学が唱えられており、健康食品にも癌への効果があるという売り込みがなされたりしたが、その信憑性は極めて怪しくなった。
仮に、癌に対する有効成分が含まれているとしても、サメ軟骨の抽出物の経口投与によって、癌の病変部位や血管新生部位にまでその成分が到達するという保証がないことも考慮する必要があるが、効果を強く信じて飲むことによってエビデンスのない薬品や健康食品が奏効するプラセボ効果は期待できるかもしれない。

  • 日本では大麻マリファナ・ハシシ(大麻樹脂)・ガンジャ)は有毒性・害毒のある麻薬として指定され取締りの対象である。大麻取締法は、昭和23年に制定され、昭和38年に現在ある刑罰の量刑へと改訂されている。

しかし、大麻の身体・精神への毒性や社会的害毒に関する米国薬害研究所(NIDA)、メルクマニュアルや弁護士による独自調査などの研究・調査の報告結果から、大麻はアルコールや煙草と比較して著しく毒性や害悪が強いものではないため、大麻取締法違憲性を主張する動きもある。
特に、NIDAの一部の研究では、マリファナの耐性・依存性・禁断症状は、カフェインと同等であるとしているようだ。

この場合の違憲性とは、憲法13条(個人の尊重と幸福追求権)、14条(法の下の平等)、31条(処罰に関する法定手続きの保証)である。
しかし、最高裁判決では、科学的知見や科学的実証性に触れることなく、大麻は歴史的に規制されているが故に有害であり社会的な害毒になるとして大麻取締法の合憲性を認める判決を出しているようである。
諸外国の薬理作用や薬害に関する臨床研究や基礎研究のデータが信用ならないとするならば、大麻は癌やエイズの症状進行に伴う耐え難い疼痛緩和など安全性の高い医療利用も考えられることから、日本独自の調査研究を公的機関において進める意義はあるかもしれない。

しかし、大麻に対する安全性がメルクマニュアルなど医学的権威のある専門書から指摘される一方で、ドイツの若者14〜24歳を被験者とした大麻の継続使用の影響についての調査で不快な精神症状を誘発する可能性があるという結果が出されている事にも留意する必要がある。
完全に個人の嗜好品として一般に使用しても安全なのかどうか、煙草やアルコールと比較して有害性の程度が低いのかどうかは、もう少し慎重な大規模調査を行ってからのほうが良いかもしれない。
また、医療利用であるならば兎も角、煙草ではなく大麻を積極的に娯楽として使用する必然性が乏しいことからも、司法領域において前例踏襲の保守的傾向が根強い日本における合法化は難しいようにも思える。

致命的な癌発症リスクのみに着目すれば、煙草よりマリファナのほうが安全であるし、長期間大量摂取による精神荒廃から死亡のリスクに着目すれば、マリファナよりアルコールのほうが危険である。また、依存性の観点からも煙草に含まれるニコチンのほうが強いと言われるが、マリファナは作為体験を伴う幻覚や破壊的攻撃的な妄想作用こそないものの軽度の陶酔感と酩酊感によるトリップをもたらし、記憶・知覚・判断機能の低下といった精神作用を持つ為に一般的に麻薬というイメージが強い。
違法な麻薬と合法な向精神薬・合法な依存性のある嗜好品との境界線には曖昧な部分もあるが、精神状態に与える影響力の強弱によって現実認識能力に障害が起こらないか、使用による自傷他害の危険性はないか、依存性・耐性の形成によって離脱不可能になる禁断症状がでないかといった観点から考える事になるだろう。

マリファナの場合には、依存性・耐性は極弱いものであり、他人を傷つけるような類の幻覚妄想の恐れもないが、やはり、精神症状として現実検討能力の低下による陶酔感・トリップが起こる事が警戒されているのではないか。
しかし、マリファナの陶酔とアルコールの酩酊のどちらがより有害性が高いのかは微妙なところであり、酒の場合は合法的に容認されてきた歴史が長い為に問題視されない慣習が成立しているということになるだろう。仕事の報酬としての酒を楽しみにして働いている者の数が無視できないほどに多く、社交の場の親近感を促進する道具としても使われる為、今更禁止できないという政治的判断によるものだと解釈されることになりそうだ。

ただし、アルコールを基準とした有害性の強弱のみで、中枢神経系へ作用して精神状態の変化を引き起こす薬理作用のある物質を無条件に認可してよいという判断を下すのは安直かつ早計であるようにも思える。
絶対に使用しなければならない疾患や障害などの必然性がないのであれば、積極的にその使用を促進する娯楽化を進める意義は乏しいという見方も出来る。
自由主義の精神や理念からすれば、取り締まるべき具体的根拠がないならば全て解禁すべしという答えになるのであろうが……。

大麻は非常に短期間で生長する繁殖力の旺盛な植物なので、環境保護の為の安価な繊維・紙・建築材料などの生物資源としての利用のほうがこれから注目されるかもしれない。

アルコールは、大量摂取が習慣化して依存性が形成されると、虚血性脳卒中など脳血管障害のリスクを飛躍的に高めるとも言われるが、適度な飲酒は循環器系の働きを活発にし、精神を穏やかにリラックスさせる効果が期待できる。
何事も、節度ある適切な分量で自制することが肝要である。