ウィトゲンシュタインと科学哲学

ウィトゲンシュタインは、命題の意味とは、『命題を検証する方法』であると考えていた。
そして、ウィトゲンシュタインの『反哲学の徒』としての側面がそこにある。彼にとって検証方法を持たない形而上学的命題は無意味なのであり、考えても解決できないどうしようもない問題なのである。

意味の検証理論の論理的帰結として『真なる命題の総体が全自然科学である』という言明に行き着くのである。ウィーン学団論理実証主義とは、ウィトゲンシュタイン前期のこうした一面を物理学主義に特化し拡大解釈したものであると考えることが出来る。

1960年代になると、科学哲学内部からハンソン、クーン、ファイアアーベントといった面々が現れて、論理実証主義を批判し始めた。
ハンソンは『科学的発見のパターン』において、観察が単純に感覚与件を受容する事ではなく、対象を『〜として見る』という解釈の契機を含んだ『理論負荷性』を持つものであると主張しました。
これは、どんな科学的な対象も純粋に客観的で中立公平であるわけにはいかず、理論による若干の影響を受け、理論を正当化する傾向が見られる事もあるというものです。
ハンソンの考え方は、論理実証主義の理論言語と観察言語とを峻別して、それらを検証理論によって相互に結びつけると言う考え方を批判するものです。

20世紀科学哲学の最大の発見とされるのは、トマス・クーンの『パラダイム理論』です。クーンの『科学革命の構造』は、科学的知識の累積性と連続的な進歩発展という論理実証主義が支持する基本前提に、強烈な異議を唱えて批判するものでした。
クーンは、ウィトゲンシュタインの『改めて行われる実験が、それ以前の実験に偽証の罪を負わせることはできない。出来るのは、我々の見方を一変させることだけである』という言葉に代表される言語ゲーム的な科学の進歩観に影響されているようにも見える。

ウィトゲンシュタインの思想は、科学哲学にも大きな影響を与えている。