矛盾を巡るウィトゲンシュタインの怜悧で敬虔な数学観

ウィトゲンシュタインの基本的な数学観は、『数学を無誤謬で無矛盾のゲーム』と考えるものである。
簡単にウィトゲンシュタインの数学観をまとめると、以下のようになるだろう。

1.数学とは普遍的規則に従った数式の変形(計算・証明)であり、それ以外の数学の営為は哲学的散文に過ぎず無意味である。
2.数学的命題は、その意味を計算・証明の過程から汲み取るのであり、数学的命題の意味は外部から補足されるわけではない。
3.数学者の言説をウィトが批判する時には、式の変形の部分ではなく、それ以外の哲学的散文の部分である。

また、ウィトゲンシュタインは、ラッセルのパラドックス論によって引き起こされた『数学の危機』というものを全く問題にしていなかったし、それを解決する必要も感じていなかったようだ。

ウィトゲンシュタインウィーン学団』という書物では


『私がゲームすることが出来る限り、ゲームできるのであり、全ては秩序立っている。実際、事態は次のようである。計算としての計算は秩序立っている。矛盾について語ることは全く意味を為さない。』
『数学で矛盾が発見されたからといって、数学者たちが何百年間も計算してきたものが全て、突然廃棄されるだろうか?それは、計算ではなかったと我々は言うだろうか?断じてそうではない。』

矛盾があっても、それが顕在化しないならば、そのまま数学ゲームを続ければいいし、矛盾が明らかになればその時点で数学の理論を修正して手直しして再び数学ゲームを続ければいいだけのことじゃないか。
ウィトゲンシュタインは、素朴に数学という規則正しく冷たい論理を絶対化し信奉していたのかもしれない。