シーパワーとランドパワーの政策方針

世界には実に約200の国々と無数の民族部族が存在するが、世界の有力な国々を大きく分割するとシーパワーとランドパワーに分ける事が出来ます。
シーパワーとは、アメリカ、イギリス、日本、オーストラリアなどに代表される海洋国家のことであり、ランドパワーとは、ロシア(旧ソ連の威圧的支配的な外交戦略はランドパワーの典型)、中華人民共和国(中国)、ドイツ、フランス、オーストリア朝鮮半島などの大陸国家の事です。
そして、アメリカやイスラエルと対立して戦争を行ったイラクアフガニスタンをはじめとするイスラム教信者によって成り立っている中東や北アフリカアラブ諸国家もランドパワーです。

勿論、イスラム教徒であるムスリムの多いイスラム教国家は、ランドパワーだけではなく、日本の海上貿易の重要な通路を領海に含むインドネシアやマレーシアのようなシーパワーのイスラム国家群もあります。
日本の安全な交易路の確保という意味での経営戦略や国家安全保障を考える上で、安全なシーレーン海上交通路)確保は最重要課題ですが、その為にはイスラム教国家との友好関係を維持することが必要です。
日本は現在中東諸国から輸入する石油をマラッカ海峡を通るシーレーンで輸送していますが、それはマレーシアやインドネシアと良好な関係を結べている事とアメリカの圧倒的な海軍力に支えられています。
しかし、イラク戦争のような非民主主義的政治体制(王制・軍事政権などの独裁政権)を取るイスラム諸国に対する圧力や制裁をアメリカが『自由主義と民主主義のグローバルスタンダード化(自由化・民主化の押し付け)』として今後も外交政策の方針とするならばシーレーンの安全確保が出来なくなる可能性があります。
その際に、重要になってくるのがロシア国内を通るシベリア鉄道によるランドレーンという事になってきます。


現在の日本は、極端に海上交通を重視しているが、近代に入るまでは中国から中東、トルコを経てヨーロッパに向かうシルクロードが幹線道路として使われていました。シーレーンよりもランドレーンをかつては主要な通路として利用していて、そのシルクロードはヨーロッパのローマ帝国までの長大な距離をカバーしていたのです。

古代から中世、近代初期までは確かにシルクロードという一大ランドレーン(陸上交通路)がローマ帝国中華帝国の権威と武力のお陰で安全な通路として機能していました。特にモンゴル帝国である元の時代には、抜群の機動力を誇るモンゴルの騎馬部隊が遥々ヨーロッパまで遠征を繰り返したので、狂暴で残酷なモンゴル兵を恐れてシルクロードに出没していた山賊や盗賊が全く姿を現さなくなったと言われています。

シルクロードキリスト教国とイスラム教国の激しい戦争やローマ帝国中華帝国の威光の通用しない中小国家の乱立によって機能しなくなると、ローマ帝国はインドまで通じていた海上交易路を中国東岸部まで拡大して、かつての古代ギリシア人のように『海の民』的な艦船による海上貿易を中国と行うようになりました。
そのシーレーンが現代の日本が海上交通路として利用しているものの元型ですが、最近のアメリカのイラクアフガニスタンなどイスラムの中東諸国に対する強硬な戦争外交によってシーレーンの安全性が低下する可能性があります。
その場合に最も現実的で効率的な輸送路として、イスラム諸国家を通過せず、イスラム諸国家に干渉されない長大なロシアのシベリア鉄道があります。
1991年以前は、ロシアは共産主義国家の宗主国ソ連としてアメリカと冷戦状態にあり日本とも敵対していましたが、現在のロシアは自由市場経済を取り入れた(不完全とはいえ)資本主義国です。市場経済のメカニズムを嫌った共産主義イデオロギーによる統制の無い国になっているので、日本から相応の資金提供や通行料を支払えば安全なランドレーンをいざという時には使用することが出来ます。

日本は、これから先、軍事的な大国になる事は望めないでしょうし、私は軍事大国として世界に睨みを効かせる覇権国家を目指すべきではないと思います。
核武装をして、航空母艦を所持することで、他国の侵略や攻撃を事前に抑止するというパワーバランスの政治力学もありますが、核ミサイル所持国を今以上に増やす事は、国家間戦争や狂信的テロリストによる人類絶滅のリスクを高める可能性がありますから慎重になるべきです。
自衛に必要な軍事力と国民の生活を守る経済力のバランスを取る事は重要ですが、経済競争力を維持する為には、世界の基軸通貨を発行する経済大国や世界の安全保障の中核を担う軍事大国との交易や友好が非常に大切になってきます。
貿易を円滑に行う為に、アメリカやEU、アジアの国々との貿易路をシーレーンとランドレーン双方で確保することを考えていかなければなりません。