アメリカ大統領選に寄せて


前述したような社会保障政策を巡っての論争が、大統領選挙を11月に控えたアメリカでも活発に行われています。
共和党のブッシュは、新自由主義者らしく市場経済のメカニズムに全幅の信頼を寄せて、社会保障給付は最低限のラインに抑えたい考えを持ち、民主党のケリーは、リベラリズムの伝統を汲んで軍事力の増強を中心とする国家安全保障よりも社会的弱者救済・セーフティネット充実・教育改革など社会保障分野への予算配分を大きくしたいという意向を持っています。
基本的に、ブッシュは、経済活動に関しては規制緩和や減税によって自由な競争の環境を整えれば、経済は発展するとする保守主義で、ブッシュ自身は『思いやりのある保守主義』という言い方もしています。
対して、ケリーは、海外への雇用の流出を何とか堰き止めたいと考え、更に中間所得層の生活の保護の為に、一部の通商分野に関しては雇用確保のための保護貿易的な通商活動を進めたいとしています。

日本の経済の回復や安全保障にとって有利なのはブッシュの経済政策であり軍事行動重視の外交政策ですから、小泉総理や武部幹事長が思わず口を滑らせて『ブッシュに勝って欲しい』という内容を発言してしまったのかもしれません。
まぁ、他国の選挙活動に対して政権中枢を担う人物が応援メッセージを送る事に対する内政干渉や不自然な肩入れの問題はありますが、他国の選挙に個人的な友情を元に応援をするというのは珍しいといえば珍しい。
ゆうせいただ、あまりブッシュばかりに応援の言葉を掛けて支持していると、ケリーが大統領になった時にお互いに何となく気まずい感情が残り、親交を深めることが難しくなるでしょうね。
ただでさえ、ケリーの掲げる経済政策や外交政策は日本にとって厳しいものばかりで、アジア外交においても日本をあまり重要視していません。基本的に、民主党共和党よりも日本に対して攻撃的で批判的というイメージがクリントン政権時代から濃厚にありますから、ケリー勝利によって日本が貿易通商活動に厳しい足枷を付されたり、日米同盟のあり方が不利な方向に展開したりする可能性は否定できません。
結局、日米関係は絶えず良好に保つ必要が現時点ではあるのですから、共和・民主のどちらが勝っても首脳同士の仲に溝が生まれないようにすることが国益にも適うことだと思います。

共和党は、財政支出において社会保障よりも安全保障を重視し、様々な経済活動や福祉領域・公共事業に対する政府介入を最小限にしようとする『小さな政府』を理想とする伝統があり、民主党は、財政支出において安全保障よりも社会保障を重視し、中間所得層以下の生活水準を向上させ、雇用を促進する為に社会保障・公共事業への政府介入を積極的にしようという『大きな政府』を理想とする伝統があります。

大きな政府は、欧州に見られるような福祉国家の方向なので財政負担が大きくなり、税金も高くなりますが、国民の生活全般に対する保障が厚くなるので安定感はあります。
一方、小さな政府は、最低限の仕事以外は全て民間に任せて自由市場経済のメカニズムによる調整に信頼を寄せますので、財政支出が抑えられ、個人の税金負担も少なくなりますが、自分の生活や健康に対する自己責任が強く求められ公的保障や公的保険などによる支援は殆どありません。
郵政事業民営化や道路公団民営化などを推進したいとする小泉さんは、基本的な路線としては、小さな政府・スリムな政府を目指している事になります。

今に至るまでの日本は、大衆迎合ポピュリズム)的な大きな政府として社、会保障分野には相当の予算を組んでお金は掛けてきたほうだとは思うのですが、十分な運用の効率性や将来に向けての計画性がなかったことで資金面で継続可能性に問題が生じています。
社会保険庁などの官僚が、自由裁量で年金資金を運用して適当な公共事業がなされたことも国民に対して大きなマイナスイメージと年金不信を植え付けました。
将来不安の高まりや制度疲労・崩壊の危機に立たされていますが、社会保障政策をどの方向にもっていき、個人負担と給付をどの水準に定めるのかが今後の大きな課題となるでしょう。