不思議な効果を持つ治療用の虫

米国で「治療用うじ虫」の生産が倍増
http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20041005306.html

今日の話題は、虫と聞くだけで背筋がゾゾゾーと来るような虫嫌いな方には不向きの話題ですが、ローテクな自然の虫を用いて難治の『壊死した傷口』を治す古典的な治療法が見直されていることに興味を惹かれたのでリンクします。


多くの患者は、うじ虫を自分に近づけると聞いただけで即座に拒絶する。たとえば、ビバリーヒルズに住む92歳の女性は、形成外科医のバリー・ハンドラー博士がうじ虫療法を提案したとき、悲鳴を上げて拒絶した。

 「この女性はおそらく、人生の中でうじ虫を相手にする必要がなかったのだろう。今さらそれを経験することは望まなかった」とハンドラー博士は振り返る。

 それでも、ローテクなうじ虫療法を支持する医師は米国だけで数百人にのぼる。また、米国最大手の医療用うじ虫の生産者は、米食品医薬品局(FDA)がうじ虫を医療用品に正式認可してから1年もたたないうちに、生産量の倍増を余儀なくされた。長い間医療の分野で無視されてきたうじ虫が、ついに甦ったようだ。

確かに現代のアメリカや日本のような先進国の都会で自然と切り離された生活をしている人にとって、節足動物や微生物は普段接する機会が少なく、できれば触りたくないと思う相手である。特に、ハエの幼虫であるうじ虫などというのは目にするだけでも気持ち悪くて嫌だと思う方も多いだろうし、私自身、うじ虫に限らず、ハエやゴキブリなどは苦手で出来れば触りたくはない。
しかも、治療用に使用されるうじ虫は大型の黒バエのものなので、見た目も大きくグロテスクで気持ち悪いという感想を持つのは文明圏で生活する人たちに共通する生理的反応だろう。

しかし、このうじ虫療法の刮目すべき長所は、黒バエのうじ虫が腐りかけた壊死を促進する悪い組織の部分だけを餌として食べるというところである。
これは、現代の最新医療技術の精髄を集めても、人間の手と薬剤、道具だけでは決して実現できない『高度な壊死・壊疽の進行抑止治療』なのです。

うじ虫を用いた重症の切り傷・刺し傷・細菌感染症などで化膿した傷などの傷治療は、かなり古い時代から行われ、その有効性が確認されていたそうです。



1920年代後半には、第1次世界大戦の元軍医がジョンズ・ホプキンズ大学でうじ虫を用いた治療を開始し、この療法はまもなく一般化した。ノードクイストさんの夫、ハーブ・ノードクイストさんは、60年前に細菌が入った足をうじ虫で治療されたことを覚えている。自宅近くの病院で、看護師が妻の傷口からうじ虫を取り除いたときも、「気分を害するようなことはなかった」と振り返る。「何が起こっているのか、まったくわからなかった」

 抗生物質が脚光を浴び、医師たちがペニシリンなどの薬に目を向けるようになると、うじ虫はたちまち人気を失ったが、シャーマン博士の研究を機に見直されるようになった。シャーマン博士は15年前、「医療用うじ虫」の飼育施設を作った。えさは悪臭を放つレバーだ。

 現在、シャーマン博士は夫人とともに、250〜500匹の消毒されたうじ虫――代金は70ドルと送料――を毎週35人もの医師に出荷している(肉を大量に食べる前のうじ虫は小さいため、1ヵ所の傷に数十匹のうじ虫を入れることができる)。シャーマン博士によると、ほんの6週間前には、1週間の出荷数が20件を超えることさえまれだったという。シャーマン博士は報道関係者の間で『ドクター・マゴット』(うじ虫博士)と呼ばれている。

 しかし、いったいなぜうじ虫なのだろう? 傷の治りが悪い患者の場合、既存の技術や薬では役に立たないという問題がある。壊死した肉を取り除くことは、往々にして困難で痛みを伴う。またこの過程で、瘢痕(はんこん)組織を含む健康な皮膚まで除去せざるを得ないケースも生じる。だが、壊死した肉をそのままにしておくのは、やはりよいことではない。ノードクイストさんの治療に当たっているハンドラー博士は、「問題は正常な治癒が遅れることだ」と説明する。「壊死した組織の切り離しにも、体内のエネルギーが使われる。(その必要がなければ、)新たな瘢痕組織の形成や傷の治癒に使われるはずのエネルギーだ」

更に、うじ虫は細菌などの異物を殺す性質があるので、院内感染などで生命を失う可能性がある『メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)』などの抗生物質への薬剤耐性をもってしまった細菌に感染した患者にとって有効な治療法になる可能性も開かれているといいます。

今現在、このうじ虫療法と似た虫を用いたもので、血栓治療や関節炎症状緩和のためのヒル治療を行っている医療機関があるという事は何かのニュースで見た記憶があるのですが、もし、腕や足に切断を余儀なくされるような激しい外傷を負ってしまった場合だとか、炎症や化膿を起こす細菌や微生物に感染してしまって自然治癒力では治癒が見込めず壊死を起こしている場合だとかには、うじ虫が気持ち悪いという理由だけで拒否するのは拙速な判断かもしれませんね。