読書

京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』を読んで:生きるモノと生きるコトの哲学的思惟と現実世界

書籍:陰摩羅鬼の瑕 著者:京極夏彦 出版社:講談社 京極夏彦が描く日本的怪奇趣味と人間心理にまつわる自由無碍な思索に満ち溢れた京極堂シリーズを数年ぶりに読み終えた。 前作『塗仏の宴 宴の支度』『塗仏の宴 宴の始末』を読了して、既に2年以上の歳月…

ネグリ=ハート『<帝国>』の雑感3:差異化の欲望に駆動された近代化プロセスが実現したものと疎外したもの

著作:『 グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』 著者:アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート 訳者:水嶋 一憲,酒井 隆史,浜 邦彦,吉田俊実 出版社:以文社 ネットワーク化された政治的主体性であり、無数の変数によって規定される権力の諸関係…

小川洋子『博士の愛した数式』を読んで:永遠の真理と愛

書籍:博士の愛した数式 著者:小川洋子 出版:新潮社 小川洋子という女流作家の小説を、偶然、手に取って読んでみました。 『博士の愛した数式』の書籍はそれほど重厚ではないので、気軽に比較的短時間で読み終えることが出来ます。小川さんの文章は、綿密…

ネグリ=ハート『』の雑感:現代世界のグローバリズムと関係性のネットワークとしての

著作:『 グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』 著者:アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート 訳者:水嶋 一憲,酒井 隆史,浜 邦彦,吉田俊実 出版社:以文社 1989年に、資本主義と社会主義のイデオロギー対立の象徴であった東西ドイツを隔ててい…

ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』:毛沢東の独裁体制とルサンチマンの独善的支配欲求

id:cosmo_sophy:20050106,id:cosmo_sophy:20050108において、ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』の概略と感想を記した際に、毛沢東時代の中国共産主義の暗黒面である『大躍進と文化大革命』について軽く触れたが、その暗黒こそがこの小説の敵役である蛇頭幹…

ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』の書評:新天地を目指す中国人家族の物語

『石の猿』の作中において、アメリカを『美しい国(メイグオ)』と呼ぶ密入国者の中国人、チャン一家とウー一家、医師のジョン・ソンが求めたものは『政治的自由と経済的成功』であった。 この小説に登場するアメリカに密入国した中国人一家は、単純な貧困か…

ジェフリー・ディーヴァー『石の猿 THE STONE MONKEY』の書評

書籍:石の猿 THE STONE MONKEY 著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver 訳者:池田真紀子 出版:文藝春秋 デンゼル・ワシントンが、脊髄損傷による全身麻痺を起こした科学捜査官リンカーン・ライムの役柄を演じた『ボーン・コレクター』という犯罪サス…

ドストエフスキー『美』を語りき。。。

id:cosmo_sophy:20041122で、完全無欠の美のイデアへの憧憬をプラトンのイデアとして語ったが、ロシアの大家ドストエフスキーは美を畏怖すべき掴み所のないものとして語っている。 美―――美という奴は恐ろしいおっかないもんだよ!つまり、杓子定規に決める事…

対談集『国家と戦争』を読んでの雑感

数年前に入手して積読していた座談集『国家と戦争』 飛鳥新社(ISBN:4870313715)を読んだ。漫画家・小林よしのり、評論家・西部邁、作家・福田和也、政治学者・佐伯啓思の対談集である。 どの方も相当に癖のある人物として知られていて、好きな人は好き、嫌い…

『男と女の進化論』を読んでの雑感

正統派の自然科学者からはトンデモ系と言われる竹内久美子の『男と女の進化論 竹内久美子 新潮文庫』(ISBN:410123812X)を読んだ。 一応言っておくが、竹内久美子の本は、科学的知識を得る為の科学書でも進化生物学の入門書でもないし、科学的に正確な記述…

ヒュームの著作。倫理道徳を語りたがる人間

前述したイギリスの哲学者デイビッド・ヒュームの著作には以下のようなものがある。 『人間本性論』1739 『道徳・政治論集』1741 『人間知性に関する哲学論集』1748(後に『人間知性の探究』1758と改題) 『道徳原理の探究』1751 『政治論集』1752 『英国史…

芥川龍之介 『杜子春』

ここ数日、空いている時間を見つけて芥川龍之介の短篇を懐かしく読み返している。 29歳という若さで自らの意志によりこの世を去った芥川の考えた人間世界の縮図が彼の文学世界にコンパクトに織り込まれていると私は中学生の時分に漠然と考えていた。 更に…

リーヌス・トーヴァルズというLinuxを立ち上げた人物についての評伝を読んだ。 知的所有権の偏狭な枠組みや既得権益の縛りを取っ払い、人類の共有財産としてソースやプログラムコード、システムを取り扱ったところにLinuxの成功の秘密があるらしいが、コンピ…

東秀紀 『荷風とル・コルビュジエのパリ』新潮社

東秀紀 『荷風とル・コルビュジエのパリ』新潮社を読んで、かなり昔に読んだ記憶のある永井荷風を再読したくなってきた。 現代作家にはなかなか見られない特異な作風とテーマを持った耽美派の作家である。作品が個性的なだけではなく、その人格や生き様も一…

フランダースの犬

フランダースの犬 Copyright (C) 2003 Kojiro Araki (荒木 光二郎) http://homepage3.nifty.com/yodaka/dogoffra.htm今日は、童心に返ってというわけではないのだけれど、何となくウィーダの『フランダースの犬』が読みたくなって読み始めると一気に読了し…

日本美術の幽遠性

源 豊宗著『日本美術の流れ』思索社 ISBN:4783510288 を世界の美の特長に思いを馳せて読んだ。 この書物の中では、日本美術は『秋草の情緒性』に象徴されるもので、西洋美術は『ヴィーナスの官能性』、中国美術は『龍の精神性』によって象徴的に示される。ヨ…