倫理学

『生命の救助と病気の治療』から『生命の選別と生死の判断』へと向かう医療:安楽と快適への流れ

自由主義社会の生命に関する倫理問題の多くは、出生前診断(マス・スクリーニング)や遺伝子治療、人工妊娠中絶、クローン人間産生、ES細胞の医療資源化など医療領域やバイオテクノロジーの領域で発生してくる。 生死に関わる問題や重篤な疾患の治療の機会…

フランシス・ゴールトンの優生学の系譜と生命倫理学のSOLとQOLの対立

ダーウィンを起源とする進化論によれば、自然界の生物達は、自然選択と突然変異を通して、新たな形質を獲得し異なる種へと進化していきます。 自然選択(自然淘汰)は、他の個体との食料の争奪戦や繁殖の為の異性獲得の闘争といった生存競争を勝ち抜いた個体…

性の特殊的価値の定立への賛否が意味するもの:流動化を志向する関係性と安定化を志向する関係性

社会的弱者である子どもや暴力への抵抗力の弱い女性を一方的な欲望充足の道具とする性犯罪者に対する怒りや憤慨というものは、人間の性の尊厳を認識する市民にとっておよそ普遍的に共有されるものである一方、性に関連する行為や発言を過剰に意識して特別な…

快楽と利益を求める功利主義の強靭な影響力

哲学史上には、倫理の指標を取り扱う数多くの思想的立場がありますが、現代社会で優勢というよりは最早支配的と言える『自由主義(liberalism)』『功利主義(utilitarianism)』の基礎を論述したのはJ・S・ミル(John Stuart Mill 1806〜1873 英)です。 ミル…

現代における“正義の戦争”と“戦争の日常化”による倫理の頽落

確かに、現代の流動的で多様性に満ちた国内社会や国際社会の環境下にあっては、インマヌエル・カントの『汝の人格及びあらゆる他者の人格における人間性を常に同時に“目的”として取り扱い、決して単に手段としてのみ取り扱う事のないように行為せよ』という…

アメリカの最高裁のバーチャル児童ポルノに関する判断

http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/culture/story/20020417205.html レンキスト主席裁判官はこう記す。「わが国の児童ポルノ関連法を確実に施行するという目標は切実なものである。(児童ポルノ防止法は、)児童ポルノの定義を広げ、現実の子どもがあからさ…

喪失される『師資相承』と空中楼閣として聳える人徳

国語教諭:相田みつをの詩知らず、女子生徒けなす http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20041225k0000m040190000c.html 書き初めの宿題に書家、詩人として著名な相田みつをの詩を書いたところ、中学の男性国語教諭(53)に「やくざの書くような言葉…

変転する人類の認識と克服されるアンシャンレジームとしての価値:寛容性を忘却しない普遍妥当性を目指して

『認識論・存在論・価値論』は、哲学の三大領域として密接に結びついています。私たちが、20世紀の『大量破壊兵器を用いた戦争の世紀』で学習した大きな倫理学的成果は、自然世界の真実への接近とその応用である科学技術の進歩が、人間の幸福や正義の実現…

知的財産権の保護と情報社会における『所有形態』

情報技術の驚異的な進展によって、物理的な現実社会と電子的な仮想社会の分裂や対立が起きている中、法律がインターネットに代表されるサイバースペースでの犯罪や紛争に十分に対応出来ていないという話をよく聞く。 特に、著作権を中心とする知的財産権を従…

ised@glocomとサイバー空間における民主主義の可能性

ised@glocom http://ised.glocom.jp/ised/少し前に、多くのブログで引用され、有意義な議論や興味深い評論が為されていたised@glocomの『情報社会の倫理と設計についての学際的研究』ですが、その内容の分量が膨大な事もあって、簡単に目を通しただけで終わ…

人間は無益な受難であり、自由の刑に処せられた罪人に過ぎないのか?

id:KENTAROさんからトラックバックを頂き、緩慢な睡魔と共に生きる意味について思いを馳せながら、簡単に内容を敷衍してみます。『絶対的な意味はない』というKENTAROさんの言葉が印象に残りましたが、サルトルなんかが言う様に『人間は無益な受難』に過ぎな…

実存的な存在意義の苦悩に対処する三つのスタンス

『生物の目的は何か?』という問い掛けに、生物学的な回答を示すと『個体の生存維持』と『個体の遺伝子の保存』『結果としての種の保存』と言う事が出来るが、人間を他の動物とは次元の異なる高次の生物だと考えたい人たちにとっては『生物学的な回答』だけ…

クローン人間産生問題

条約を断念、宣言採択へ クローン禁止で国連 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041120-00000048-kyodo-int クローン禁止条約をめぐり協議を続けてきた国連総会の第6委員会は会期最終日の19日、全面禁止、部分禁止両派の対立が続く国際条約の策定を断…

生命の価値判断と脳機能中心の人間観

id:cosmo_sophy:20040923で、バイオエシックスの話題に少し触れましたが、バイオエシックス=生命倫理学は、生物学と倫理学を架橋する学問分野であり、『不可侵の生命の尊厳』や『人間の科学技術による生命の人為的操作の是非』について倫理的に考察を進める…

ベンサムの近代的な功利主義とエピクロスの古代的な快楽主義

前回、ベンサムの量的功利主義とミルの質的功利主義を粗描してみましたが、もう少しベンサムの考えた功利性というものを詳細に見ていこうと思います。 ベンサムの功利性とは即ち近代的な快楽主義(hedonism)です。古代的な快楽主義の代表者にエピクロス(Epiko…

快楽と利益を求める功利主義の強靭な影響力

哲学史上には、倫理の指標を取り扱う数多くの思想的立場がありますが、現代社会で優勢というよりは最早支配的と言える『自由主義(liberalism)』『功利主義(utilitarianism)』の基礎を論述したのはJ・S・ミル(John Stuart Mill 1806〜1873 英)です。 ミル…

ネット集団自殺の心理

皆野町、ネット集団自殺報道 ―毎日新聞― http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2004/10/14/20041014ddlk11040123000c.htmlインターネットの自殺サイトを媒介した自殺、自殺手段としての車内での練炭燃焼による一酸化中毒、閉塞した社会環境と絶望…

コンピューター倫理学と倫理を解剖する愉悦

倫理学には、生命倫理、医療倫理、企業倫理、性倫理など様々な分野を取り扱うものがあるが、ダートマス大学のジェームズ・ムーア教授のコンピューター・エシックス(computer ethics)に関する論文が嚆矢になったとされるコンピューター倫理学という新しい分野…