精神医学

子どもの沈黙の理由を語るグッドウィンのBLIND理論

性的虐待を受けた子どもの大半は、その行為に嫌悪や不快を感じていても、それをはっきりと言葉で表現して拒絶することが出来ない。 子どもが何故、性的虐待に対して沈黙を守るのか、拒否の意思表示が出来ないのかという理由について、グッドウィン(J.M.Goodw…

性的虐待・性暴力の定義と子どもに対する性的虐待の精神的影響

家庭内における性的虐待という残酷極まりないエゴイスティックな虐待行為は、人間社会の倫理規範を二重に侵犯していると言えます。 一つは、『性暴力(sexual abuse or sexual violence)』という子どもの性的尊厳の不条理な侵害という侵犯行為で、これは強姦…

反社会性人格障害と被害者意識を伴う認知傾向

精神病理学の中で、心理的原因によって種々の症状や機能障害が出る神経症水準の疾患は、カウンセリングや心理療法などで比較的容易に治療でき、内因性・心因性の統合失調症(精神分裂病)に代表される精神病水準の疾患も、現実認識能力の著しい低下は見られ…

皇太子妃雅子さまの公務復帰延期とSO(スペシャル・オリンピック)について

皇室:雅子さま、SO冬季世界大会出席を中止 出発1時間前に−−数日体調すぐれず 宮内庁は26日午前、同日午後からの予定だった皇太子妃雅子さまの長野県訪問を取りやめると発表した。「スペシャルオリンピックス冬季世界大会」出席のため、1年3カ月ぶり…

『遊びと空想の理論』からの連想による精神分析の“場”の特殊性

現実と想像の境界線が朦朧として、曖昧になる精神状態を呈す統合失調症(精神分裂病)に対するサイコセラピー、カウンセリングの本質が何処にあるかを考えると、それはメタ・コミュニケーションの傾向や性癖の変容にある。 これは、カウンセリング及び心理療…

統合失調症の“言葉のサラダ”とベイトソンのコミュニケーション理論の研究

統合失調症(精神分裂病)の代表的な症状に、言語の論理性の混乱と他者とのコミュニケーションの障害を示す“言葉のサラダ”というものがあります。 言葉のサラダとは、言語によって構築される観念(概念)と意味の体系が破綻して、支離滅裂で共通理解不能な言…

抑うつスパイラルによる悪循環からの離脱の為の認知転換

認知療法の創始者であるアーロン・ベックが、うつ病の認知の三徴候(cognitive triad)と呼んだのは『自己に対する否定的な認知・世界に対する否定的な認知・将来に対する否定的な認知』でした。 以前(id:cosmo_sophy:20050119)、認知療法の理論による気分障害…

気分障害の下位分類としての気分変調障害と気分循環障害

うつ病(単極性障害)や躁うつ病(双極性障害)は一般的な病名として、現在、広く人口に膾炙しつつありますが、id:cosmo_sophy:20041216において、気分の異常な興奮や落ち込み、感情の不安定さを主訴とする病態の高次分類として気分障害を上げました。うつ病…

アーロン・ベックの抑うつ理論と簡潔明瞭な認知療法の確立

うつ病の症状の種類と重症度を客観的に測定する尺度として、アーロン・ベック(Aaron T. Beck)が1961年に考案し実用化した『BDI(Beck Depression Inventory:ベック抑うつ評価尺度)』という評価尺度があります。 ペンシルバニア大学のアーロン・ベックは、精…

エリザベス・キューブラー・ロスの『最期のレッスン』

NHKで、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの人生と死去を取り扱った報道番組を鑑賞した。 エリザベス・キューブラー・ロス博士の臨死体験にまつわる思想やターミナルケアの活動について、私は以前、深い興味を抱いている時期があったが長い期間、彼…

シャーマンの特殊能力と認知障害、ソクラテスのダイモンの声

進化論的な知見や立場から人間の行動や感情の由来を研究する『進化心理学』や病気や障害、寿命による死などを進化論の知識を利用して研究する『進化医学』などでは、統合失調症やうつ病などの精神疾患にも進化的な意義や環境適応的な要素があると説明される…

脳の機能局在説と『人間本性(ピュシス)』に宿る美徳

精神医学において、『二大内因性精神病』と定義されるのは、『統合失調症(精神分裂病)』と『双極性障害(躁うつ病)』*1ですが、何故、その他の精神障害である神経症・心身症・自律神経失調症などと区別されるのかという問いに本質的な答えを与える為には…

生命を存続させる巧妙な身体の仕組み:ホメオスタシス

ヨーロッパでは、ルネサンス期の神の支配からの離脱と科学的精神の高まりの中で、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)の様に人体の解剖学的構造に興味を持つ進歩的な万能人が現れました。 レオナルド・ダ・ヴィンチは、画家や彫刻といった芸術家として非常…

『ひき裂かれた自己』レイン:内的世界の相互干渉と他者性

統合失調症(精神分裂病)にまつわる誤解や偏見は実に基本的な部分にある事が多い。 過去の記事id:cosmo_sophy:20041109に書いたように、精神分裂病という名称から生じた間違った認識として『精神機能の分裂を人格の分裂と崩壊』に置き換えて考えてしまう事…

フーコーの関係的な権力作用に抗したレインの反精神医学

id:cosmo_sophy:20041109の記事に関連する一連の流れの中で、19世紀末〜20世紀初頭のクレペリンの早発性痴呆(1899年)やブロイラーの精神分裂病(1911年)などを振り返って、精神疾患概念の定義と整理の歴史を見てきました。 不治の病とされていた統合失調…

精神分析学の転移概念と分析的関係の距離感

id:cosmo_sophy:20041110の記事で、精神分析やカウンセリングの治療的面接の場面において生起する『転移(transference)と逆転移の概念』*1について簡略な説明をした。転移とは、クライエントの過去の記憶に痕跡を残している強烈な満たされない感情の向かう先…

ぷちナショナリズム症候群のサマリー感想とエディプス・コンプレックス

ぷちナショナリズム症候群のサマリー http://homepage1.nifty.com/nuka/kasetu/siryo/0212/putinasyo.html 精神科医・香山リカの著書に『ぷちナショナリズム症候群〜若者たちのニッポン主義』があり、未読だがサマリーがあったので読んでみました。 序章 「…

ブロイラーの精神分裂病概念の発展とボーダーラインの出現

前回、クレペリンが早発性痴呆(Dementia praecox)の疾病単位を確立して、それまで曖昧模糊としていた症候群から躁鬱病と統合失調症という『二大内因性精神病』を析出した事を見てきました。 内因性は、先天的・後天的な身体的原因が想定されるが原因を特定…

クレペリンによる精神医学の体系化と早発性痴呆の疾病概念

精神分裂病*1の名称の歴史は、オイゲン・ブロイラー(Bleuler,E. 1857〜1937)が1911年に『Schizophrenie:精神分裂病』の精神疾患概念の提示をした事とその邦訳(日本語訳)に始まります。 “Schizo”は『分裂』を意味し、“phrenie”は『魂・精神・息吹』を意味…

精神病理学のデファクトスタンダードとしてのアメリカ発DSM―Ⅳ

id:cosmo_sophy:20041101の記述で、フロイトの精神分析理論における精神病(統合失調症)の位置付けを大まかに略述した。 伝統的な精神分析では、精神病と神経症の区別を『現実検討能力・現実吟味能力』の有無と『主訴である症状の苦悩や内容について健常者…

フロイトの精神病解釈。唯物論と唯心論

現在、統合失調症と呼ばれる精神疾患*1の歴史を遡る事で、20世紀の精神医学の概観を知る事が出来る。シグムンド・フロイト(1856-1939)の精神分析学が主要な適応症としたのは無意識的願望の抑圧として発病する『神経症(ヒステリー)』であり、精神病として…

アパシー・シンドローム(apathy syndrome)とうつ病:学生の無気力現象

うつ病は、ここ最近のテレビ・新聞などの報道やうつ病に似た憂鬱感や無気力の症状を経験する人の増加によって非常によく知られた精神障害(精神疾患)になっています。 その罹患率(生涯でうつ病に一度でも罹る確率は約10%)の高さから、軽症うつ病であれ…