2005-01-01から1ヶ月間の記事一覧

現代における“正義の戦争”と“戦争の日常化”による倫理の頽落

確かに、現代の流動的で多様性に満ちた国内社会や国際社会の環境下にあっては、インマヌエル・カントの『汝の人格及びあらゆる他者の人格における人間性を常に同時に“目的”として取り扱い、決して単に手段としてのみ取り扱う事のないように行為せよ』という…

ネグリ=ハート『<帝国>』の雑感2:グローバリゼーションの世界秩序と近代国民国家の誕生

著作:『 グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』 著者:アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート 訳者:水嶋 一憲,酒井 隆史,浜 邦彦,吉田俊実 出版社:以文社 ネグリは著作『』において、現代のグローバル社会は、表層的な無秩序と混沌の背景に、…

ネグリ=ハート『』の雑感:現代世界のグローバリズムと関係性のネットワークとしての

著作:『 グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性』 著者:アントニオ・ネグリ,マイケル・ハート 訳者:水嶋 一憲,酒井 隆史,浜 邦彦,吉田俊実 出版社:以文社 1989年に、資本主義と社会主義のイデオロギー対立の象徴であった東西ドイツを隔ててい…

ニ期目のブッシュ政権始動とアメリカ・日本の市場経済戦略

1月20日、アメリカのブッシュ大統領の政権2期目が、“世界秩序を維持する強いアメリカ”を前面に打ち出したワシントンでの就任演説と共に始動する事となりました。 現代の国際社会において、ブッシュが国民から民主的選挙を通して任命されたアメリカ合衆国…

エリック・バーンの“精神分析の口語訳としての交流分析”

フロイトやラカンの精神分析理論は、使用される専門用語の数が多く、専門用語によって指示される概念が難解であるだけでなく、その理論の全体を見渡す為には構造論・力動論・発達論・臨床技法など複数の理論を系統的に参照する必要があります。その精神分析…

古典的な神経症(ヒステリー)概念と人格障害の概略

精神分析が、主要な分析対象として、その病態を精細に理論化した精神疾患は、O・アンナやエリザベスの症例に典型的な『神経症(ヒステリー)』である。 フロイトが、母親への愛情と父親への対抗心といった親子関係のエディプス・コンプレックスの葛藤に苛ま…

デビッド・D・バーンズの10種類の認知の歪み(偏り)

臨床心理学の認知療法の理論によって、気分障害(うつ病等気分の変調を主症状とする病態)の抑うつ感の生起を説明する場合に必要不可欠になってくる図式は、『外界の事象→認知(思考)→感情・気分→行動』という行動メカニズムの図式です。この図式が成立した…

アーロン・ベックの抑うつ理論と簡潔明瞭な認知療法の確立

うつ病の症状の種類と重症度を客観的に測定する尺度として、アーロン・ベック(Aaron T. Beck)が1961年に考案し実用化した『BDI(Beck Depression Inventory:ベック抑うつ評価尺度)』という評価尺度があります。 ペンシルバニア大学のアーロン・ベックは、精…

知識(knowledge)と知恵(wisdom)の相補性とユングのコンステレーション(constellation)

知識(knowledge)と知恵(wisdom)は異なるが、それらは相互補完的な関係にある。 膨大な知識も深遠な知恵もそれ単独では、世界を十全に把握し、人生の価値を思う存分満喫する事は出来ない。 私は、精神性と身体性のアナロジーとして、よく知識と知恵の対比対照…

ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』:毛沢東の独裁体制とルサンチマンの独善的支配欲求

id:cosmo_sophy:20050106,id:cosmo_sophy:20050108において、ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』の概略と感想を記した際に、毛沢東時代の中国共産主義の暗黒面である『大躍進と文化大革命』について軽く触れたが、その暗黒こそがこの小説の敵役である蛇頭幹…

性格心理学の伝統的方法論としての『類型論と特性論』

人間の個人が動物の個体と異なる事を示唆する心理学的な概念を考えるならば、『人格(personality)』と『性格(character)』がまず考えられます。 人格と性格は、後天的な経験と環境の影響を非常に強く受ける可変的で柔軟性のあるものですが、一般的に年齢が高…

病態の三段階とタイプA考察による自己の心身状態への気付きの重要性

人間の病気(疾患)の原因は、要素還元的に考えると、大きく以下の要因に分ける事が出来る。 遺伝的要因・先天的体質 化学物質、放射性物質による汚染・環境的要因・外部の有害刺激(ストレッサー) 性格・人格の特徴による思考・感情・行動のパターン 喫煙…

QOL概念が近代西洋医学に与えた影響とルネサンスの科学精神

医療行政、社会福祉、カウンセリング等の臨床心理学アプローチの目的は、20世紀半ば頃まで『量化可能な生活・健康の物質的水準の向上』に置かれていた。 その物質文明的価値観を変革する流れとして、功利主義に基づく“quantity of life”から全人的アプロー…

ライフスタイルの構成と要素:私を知り、あなたを知るということ。

『ライフスタイルとは何か?』という定義を一義的に述べる事は難しいし、個人差が大きく、その内容や程度は、正に千差万別の様相を呈することになる。 ライフスタイルを出来る限り詳細に知る事は、相手をより幅広く、奥深く知る事につながる。 他人同士が一…

アメリカの最高裁のバーチャル児童ポルノに関する判断

http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/culture/story/20020417205.html レンキスト主席裁判官はこう記す。「わが国の児童ポルノ関連法を確実に施行するという目標は切実なものである。(児童ポルノ防止法は、)児童ポルノの定義を広げ、現実の子どもがあからさ…

奈良市の小1女児誘拐殺害事件と擬似児童ポルノ商品群の問題:大人になるという事とは何か?

奈良市で有山楓ちゃん(7)が殺された小1女児誘拐殺害事件の容疑者として、元毎日新聞販売所従業員の小林薫(36)が逮捕された事は記憶に新しい。 この誘拐殺害事件の起こった社会的背景を考察し、小林薫容疑者の心的発達過程と環境的要因、そして、事件…

ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』の書評:新天地を目指す中国人家族の物語

『石の猿』の作中において、アメリカを『美しい国(メイグオ)』と呼ぶ密入国者の中国人、チャン一家とウー一家、医師のジョン・ソンが求めたものは『政治的自由と経済的成功』であった。 この小説に登場するアメリカに密入国した中国人一家は、単純な貧困か…

グローバリズム考察と東洋思想の歴史の見直し

私は、読書のスピードは結構速いほうだとは思うのですが、空き時間を見繕ってのジェフリー・ディーヴァー『石の猿』の読了には少し時間がかかりました。 小説は、ジャンルを問わず純文学や歴史小説から恋愛小説、ミステリーまで何でも好きなのですが、読み始…

ジェフリー・ディーヴァー『石の猿 THE STONE MONKEY』の書評

書籍:石の猿 THE STONE MONKEY 著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver 訳者:池田真紀子 出版:文藝春秋 デンゼル・ワシントンが、脊髄損傷による全身麻痺を起こした科学捜査官リンカーン・ライムの役柄を演じた『ボーン・コレクター』という犯罪サス…

カール・ロジャースの来談者中心療法とカウンセリングの基本的効果

一般的なカウンセリング技法として採用される事の多いカール・ロジャースの支持的な『来談者中心療法(client-centered therapy)』における基本的な人間像は『実現傾向を持つ個人』であり、その技法の最大の特徴は『非指示的(non-directive)療法』である事で…

価値が流動化する現代社会における適応とユングのペルソナ

カウンセリングが果たす『心理的な悩みや問題への支援』という役割は、従来、軽い悩みであれば家庭の両親や学校の教師、地域の長老格が果たし、人生の意義といった深い悩みであれば宗教がその役務を果たしてきた。 しかし、市場経済による消費社会の到来は、…

国民医療費の抑制の必要性と混合診療のメリットとデメリット

たかはしさんの示唆深いコメントを受けて、もう少し混合診療と医療財政の問題をまとめてみたいと思います。医療行政改革を考える際には、その改革によって“誰が”恩恵を受けるのかという視点が重要になってくると思います。 そして、その利害の絡まりあいは、…

日本とアメリカの医療保険制度と混合診療の問題

日本の医療保険制度や医療政策は、現在、数々の厳しい批判や叱責を受けているが、日本の医療制度や診療内容を、諸外国の医療の実際と比較すれば、医療機会均等の面を中心にして、世界で最高水準に近い医療が行われていると言えるのではないかと私は考えてい…

生活環境と対人関係への適応的な総合的変容を志向するカウンセリング

カウンセリング(counseling)という言葉は、相談・忠告・助言という意味を持ち、広義のカウンセリングは、『何らかの問題や疑問を持っている人が、自分よりも知識・経験・技術において秀でていると思う相手や信頼できて助言を得たいと思う相手に相談や助言を…