ジェフリー・ディーヴァー『石の猿』の書評:新天地を目指す中国人家族の物語

『石の猿』の作中において、アメリカを『美しい国(メイグオ)』と呼ぶ密入国者の中国人、チャン一家とウー一家、医師のジョン・ソンが求めたものは『政治的自由と経済的成功』であった。 この小説に登場するアメリカに密入国した中国人一家は、単純な貧困か…

グローバリズム考察と東洋思想の歴史の見直し

私は、読書のスピードは結構速いほうだとは思うのですが、空き時間を見繕ってのジェフリー・ディーヴァー『石の猿』の読了には少し時間がかかりました。 小説は、ジャンルを問わず純文学や歴史小説から恋愛小説、ミステリーまで何でも好きなのですが、読み始…

ジェフリー・ディーヴァー『石の猿 THE STONE MONKEY』の書評

書籍:石の猿 THE STONE MONKEY 著者:ジェフリー・ディーヴァー Jeffery Deaver 訳者:池田真紀子 出版:文藝春秋 デンゼル・ワシントンが、脊髄損傷による全身麻痺を起こした科学捜査官リンカーン・ライムの役柄を演じた『ボーン・コレクター』という犯罪サス…

カール・ロジャースの来談者中心療法とカウンセリングの基本的効果

一般的なカウンセリング技法として採用される事の多いカール・ロジャースの支持的な『来談者中心療法(client-centered therapy)』における基本的な人間像は『実現傾向を持つ個人』であり、その技法の最大の特徴は『非指示的(non-directive)療法』である事で…

価値が流動化する現代社会における適応とユングのペルソナ

カウンセリングが果たす『心理的な悩みや問題への支援』という役割は、従来、軽い悩みであれば家庭の両親や学校の教師、地域の長老格が果たし、人生の意義といった深い悩みであれば宗教がその役務を果たしてきた。 しかし、市場経済による消費社会の到来は、…

国民医療費の抑制の必要性と混合診療のメリットとデメリット

たかはしさんの示唆深いコメントを受けて、もう少し混合診療と医療財政の問題をまとめてみたいと思います。医療行政改革を考える際には、その改革によって“誰が”恩恵を受けるのかという視点が重要になってくると思います。 そして、その利害の絡まりあいは、…

日本とアメリカの医療保険制度と混合診療の問題

日本の医療保険制度や医療政策は、現在、数々の厳しい批判や叱責を受けているが、日本の医療制度や診療内容を、諸外国の医療の実際と比較すれば、医療機会均等の面を中心にして、世界で最高水準に近い医療が行われていると言えるのではないかと私は考えてい…

生活環境と対人関係への適応的な総合的変容を志向するカウンセリング

カウンセリング(counseling)という言葉は、相談・忠告・助言という意味を持ち、広義のカウンセリングは、『何らかの問題や疑問を持っている人が、自分よりも知識・経験・技術において秀でていると思う相手や信頼できて助言を得たいと思う相手に相談や助言を…

ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへの移行と共同性の衰退

人間の精神は基本的性向として、普遍的な真理や絶対的な価値への志向を持っているように思われてきた。 私達は、長い歴史の過程から固定的で強制的な価値が絶対化する危険を学習した結果、文化多元主義や価値相対主義の視座を獲得した。 私は、文化多元主義…

いつも日付を意識する事なく、ある程度の長さを持つエントリー(記事)を書く度に、一日の枠組みでアップしていますが、このエントリーを持って2004年度最後のエントリーとなります。 物事を深く考える契機として、自分の内面にあるものや知識として覚えてお…

イラク国民議会選挙:汎アラブ主義(Pan-Arabism)の挫折とイスラム原理主義の台頭

ビンラディン容疑者:イラク選挙ボイコットを呼び掛け http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20041228k0000e030001000c.html 中東の衛星テレビ、アルジャジーラは27日夜、国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディン容疑者の声とされる声…

チューリング・テストによる人間と機械の識別

人間の意識と機械の機能の差異は、質的なものか、量的なものか。 多くの人間は、『人間と機械の差異は質的なものであるから、絶対に機械が人間と同質の意識を持つ事は有り得ない』と信じている。 私もどちらかと言えば、『人間の意識と機械の機能の質的差異…

切り離す事の出来ない『脳・身体・環境・他者』の連動が創出する幸福をアフォードする。

今日は、id:KENTAROさんの所で、『人間の脳と幸福を生み出す装置』に関する興味深い議論が行われていたので、そこにコメントした内容を一部加筆して掲載します。 id:Lainさんの意見なども色々と示唆されるものがありますので、関心のある方は、読んでみられ…

エリザベス・キューブラー・ロスの『最期のレッスン』

NHKで、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの人生と死去を取り扱った報道番組を鑑賞した。 エリザベス・キューブラー・ロス博士の臨死体験にまつわる思想やターミナルケアの活動について、私は以前、深い興味を抱いている時期があったが長い期間、彼…

喪失される『師資相承』と空中楼閣として聳える人徳

国語教諭:相田みつをの詩知らず、女子生徒けなす http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20041225k0000m040190000c.html 書き初めの宿題に書家、詩人として著名な相田みつをの詩を書いたところ、中学の男性国語教諭(53)に「やくざの書くような言葉…

主観主義と客観主義

今回のエントリーでは、ニーチェやサルトルの思想に見られるような主観的な個人の認識や決断による価値の実践に焦点を合わせましたが、もう一つ、分析哲学(言語哲学)を応用した客観主義的なメタ倫理学などもあり、『善い・悪い・正しい・〜すべし』といっ…

変転する人類の認識と克服されるアンシャンレジームとしての価値:寛容性を忘却しない普遍妥当性を目指して

『認識論・存在論・価値論』は、哲学の三大領域として密接に結びついています。私たちが、20世紀の『大量破壊兵器を用いた戦争の世紀』で学習した大きな倫理学的成果は、自然世界の真実への接近とその応用である科学技術の進歩が、人間の幸福や正義の実現…

科学教育の主眼は科学的思考の獲得にあり

理科教育:物理3学会、中教審に12項目の提言 http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20041223k0000m040113000c.html 日本物理学会、応用物理学会、日本物理教育学会の3学会は22日、小・中・高校の理科教育の充実を求める12項目の提言を…

知的財産権の保護と情報社会における『所有形態』

情報技術の驚異的な進展によって、物理的な現実社会と電子的な仮想社会の分裂や対立が起きている中、法律がインターネットに代表されるサイバースペースでの犯罪や紛争に十分に対応出来ていないという話をよく聞く。 特に、著作権を中心とする知的財産権を従…

アニミズムの衰退と自然世界の機械化

id:cosmo_sophy:20041222で、原始宗教の心情的基盤にあったアニミズムの思想について触れました。シャーマン(精霊術師・呪術師・呪医)が、近代以降の社会から消えた最大の原因は、自然科学的世界観の普及です。 デカルトが、人間精神(思惟)と事物・現象…

語学に精通したラッセルと哲学に見る思考の解放性

偉大なる数理論理学者バートランド・ラッセル(Bertrand Russell, 1872〜1970)は、“ラッセル卿”と呼ばれるようにイギリスの名門貴族の傍流の家系*1に産まれた貴族であった。 ラッセルは、かなり小さな頃から語学領域に天才的な才能を見せ始めていた。祖父母は…

シャーマンの特殊能力と認知障害、ソクラテスのダイモンの声

進化論的な知見や立場から人間の行動や感情の由来を研究する『進化心理学』や病気や障害、寿命による死などを進化論の知識を利用して研究する『進化医学』などでは、統合失調症やうつ病などの精神疾患にも進化的な意義や環境適応的な要素があると説明される…

社会性昆虫のアリ社会の遺伝子による完全なる統制と遺伝子の呪縛を離れたヒト

情報技術の飛躍的なイノベーション、所謂、情報革命が『創発』の可能性を切り開いたというのは、ブログや個人サイトを含めた情報発信能力の分散と趣味の多様化によるコミュニティの細分化が大きな要素として機能しているという事だろう。 特に、インターネッ…

ised@glocomとサイバー空間における民主主義の可能性

ised@glocom http://ised.glocom.jp/ised/少し前に、多くのブログで引用され、有意義な議論や興味深い評論が為されていたised@glocomの『情報社会の倫理と設計についての学際的研究』ですが、その内容の分量が膨大な事もあって、簡単に目を通しただけで終わ…

田代まさし被告の公判:プライバシーの権利と性嗜好障害

田代まさし被告:第2回公判 http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20041218k0000m040113000c.html 覚せい剤取締法違反(所持、使用)などに問われた元タレントで無職、田代まさし被告(48)=本名・田代政=の第2回公判が17日、東京地裁(…

アリストテレスの三段論法から記号論理学(数理論理学)へ

人間の理性で最も有用性のあるとされる機能『論理(logic)』とは何か? 私たちはよく日常的な会話の中で、『彼の話は論理的だ』『彼の意見は非論理的だ』というセンテンスを口にする。 その場合に、私たちが留意しなければならない事柄は、『論理』に高い価値…

税制改革と増税による財政赤字削減

かなり長い記事だが、税金の納付と社会保障の給付の収支バランスを考える際のレファランスとして『税制改正大綱』を貼り付けておく。 少子高齢化が継続的に進行する社会保障基盤が安定しない情況であり、女性特殊出生率の急速な低下と未婚化晩婚化、若年層の…

『戦場のピアニスト』とナチスドイツの反ユダヤ政策

つい先日、『戦場のピアニスト』という実際の伝記に題材を取った映画をテレビで見たが、一人のピアニスト・シュピルマンの視点を通して、ナチス侵略下のポーランドの情勢と次第に生活領域を狭められ、ゲットー(ユダヤ人居住区)へと囲い込まれていくユダヤ…

脳の機能局在説と『人間本性(ピュシス)』に宿る美徳

精神医学において、『二大内因性精神病』と定義されるのは、『統合失調症(精神分裂病)』と『双極性障害(躁うつ病)』*1ですが、何故、その他の精神障害である神経症・心身症・自律神経失調症などと区別されるのかという問いに本質的な答えを与える為には…

『私』が『私』であるとはどのようなことか?脳と意識を巡って。

心と脳の相互的な関係について議論されている時に、頻繁に対立軸として採用されるのが、唯物論と観念論の歴史的対立であり、自然科学全般の基本的な研究手法と言える『還元主義』とクワインが説くような『ホーリズム』の手法的対立です。 心は脳と同一のもの…