2004-01-01から1年間の記事一覧

実存的な存在意義の苦悩に対処する三つのスタンス

『生物の目的は何か?』という問い掛けに、生物学的な回答を示すと『個体の生存維持』と『個体の遺伝子の保存』『結果としての種の保存』と言う事が出来るが、人間を他の動物とは次元の異なる高次の生物だと考えたい人たちにとっては『生物学的な回答』だけ…

生命を存続させる巧妙な身体の仕組み:ホメオスタシス

ヨーロッパでは、ルネサンス期の神の支配からの離脱と科学的精神の高まりの中で、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452〜1519)の様に人体の解剖学的構造に興味を持つ進歩的な万能人が現れました。 レオナルド・ダ・ヴィンチは、画家や彫刻といった芸術家として非常…

正義なき戦争と俗的野心のある教皇の象徴としての十字軍(クルセイダーズ)

アメリカ合衆国の大統領ブッシュ氏が、『9.11米国同時多発テロ』の攻撃を受けて、二つの戦争を起こしました。 一つはテロを実行したアルカイダの指導者オサマ・ビン・ラディンを捕捉する為に起こしたアフガニスタンのタリバン政権とのアフガン戦争です。…

自己内面に広がるミクロコスモスの不可思議

私たちは、人間を考える時、心身二元論の檻に囚われやすい。 例えば、キリスト教の霊性、仏教の仏性、プラトンの永遠不滅の魂(プシュケ)、機械論的自然観を持ち延長と思惟の二元論で世界を把握したデカルトなど悠久の思想・哲学・宗教の歴史は、精神を持つ…

清貧と勤勉の人・アッシジのフランチェスコの自由なる信仰

『清貧・禁欲・勤勉・服従・貞潔』といったキリスト信仰者としての諸徳を掲げ、厳格な規制の下で共同生活を送る西方キリスト教会の修道院の起源は、6世紀(529年)にイタリアのモンテ・カッシノに聖ベネディクトゥス(480頃〜543)によって設立されたベネディ…

個体の差異の多様性と種の生存可能性:科学技術の進歩と倫理

id:cosmo_sophy:20041129で、血液型性格判断(診断)について幾許かの私見を述べたが、前回の記事で白血病に触れたので白血球の型についても簡単に説明したい。 白血病の根本治療である骨髄移植が日本では有名であるが、臓器機能不全や先天性疾患や異常奇形…

不条理なる世界に生きる人間の対象喪失の危機

セカチューという略語も出来た片山恭一氏の『世界の中心で愛をさけぶ』の中で、ヒロイン役の向井亜紀が罹患する病気は白血病であるが、人間にとって白血球は欠かす事の出来ない重要な細胞である。 白血球は、自己と非自己を区別して生命を防衛する免疫システ…

中華人民共和国の成立の歴史と政治体制の変遷について

私たちが、日常的に中国と呼び習わしている国は、漢字名での正式名称を『中華人民共和国』と言い、国際的な正式名称では『People's Republic of China:PRC,China』*1と呼ばれる。 漢民族が総人口の92%を占めるが、その他にも約55の多数の少数民族を国内…

日中関係と靖国神社参拝問題

毎日新聞 日中首脳会談:靖国参拝明言せず 外相会談で事前に確約 http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20041128k0000m010115000c.html チリで18日に行われた日中外相会談で、町村信孝外相が李肇星外相に対し、「小泉純一郎首相は記者団に対す…

『性格決めつけ』の血液型番組への抗議

毎日新聞 ―テレビ―血液型番組:「性格決めつけ」視聴者から抗議相次ぐ http://www.mainichi-msn.co.jp/geinou/tv/news/20041127k0000e040065000c.html血液型による性格判断を扱うテレビ番組が、今春から増えている。特定の血液型を「いい加減な性格の持ち主…

血液型性格診断の類型論の決定論的問題

最近、テレビや雑誌を見ていると、『血液型性格診断』の文字をよく見かけます。 その内容のキャッチコピーを見ると、『相手の血液型を知れば、恋愛は上手くいく。顧客の趣味嗜好を血液型で知れば、仕事は成功する。あなたが人間関係で悩むのは、血液型の相性…

『ひき裂かれた自己』レイン:内的世界の相互干渉と他者性

統合失調症(精神分裂病)にまつわる誤解や偏見は実に基本的な部分にある事が多い。 過去の記事id:cosmo_sophy:20041109に書いたように、精神分裂病という名称から生じた間違った認識として『精神機能の分裂を人格の分裂と崩壊』に置き換えて考えてしまう事…

ネオリベラリズムと竹中平蔵:自由競争原理と経済格差

経済成長を最大の目的とし、市場原理と自由競争に基づく市場経済のメカニズムに信頼を寄せるネオリベラリズムは、経済的自由を最大限に尊重します。 経済的成功者でない人たちの抱くネオリベラリズムの大きな問題点や不信の一つと考えられるのは、経済成長と…

フーコーの関係的な権力作用に抗したレインの反精神医学

id:cosmo_sophy:20041109の記事に関連する一連の流れの中で、19世紀末〜20世紀初頭のクレペリンの早発性痴呆(1899年)やブロイラーの精神分裂病(1911年)などを振り返って、精神疾患概念の定義と整理の歴史を見てきました。 不治の病とされていた統合失調…

リベラリズムの定義の変遷と社民主義

junp_mさんからのコメントを頂いてリベラリズムについて少し考えたのでメモを残しておきます。国家の市場介入や再分配を否定する経済的な自由や個人的な価値観に基づく愚行や思想信条など精神的な自由を最大限尊重するリバタリアニズムの立場がありますが、…

保守的な現実感覚と革新的な理想願望:現状肯定と否定の狭間で揺れる政治

id:cosmo_sophy:20041120で、ハーバーマスの政治思想を語る文脈で『右翼左翼の対立軸』について触れました。 現代社会の政治を語るに当たって、不必要な迄のイデオロギー的主張や宣伝は余り説得力を持ちませんが、『保守と革新・現状肯定と現状否定・現実的…

クローン人間産生問題

条約を断念、宣言採択へ クローン禁止で国連 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041120-00000048-kyodo-int クローン禁止条約をめぐり協議を続けてきた国連総会の第6委員会は会期最終日の19日、全面禁止、部分禁止両派の対立が続く国際条約の策定を断…

『痴呆』から『認知症』へ――行政用語の変更

痴呆の新呼称は「認知症」 厚労省、行政用語を変更 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041119-00000208-kyodo-soci痴呆に替わる呼称を検討していた厚生労働省の検討会は19日、「認知症」を新呼称にする方向で大筋合意した。来月に予定している検討会報…

ドストエフスキー『美』を語りき。。。

id:cosmo_sophy:20041122で、完全無欠の美のイデアへの憧憬をプラトンのイデアとして語ったが、ロシアの大家ドストエフスキーは美を畏怖すべき掴み所のないものとして語っている。 美―――美という奴は恐ろしいおっかないもんだよ!つまり、杓子定規に決める事…

性愛と恋愛を取り巻く科学的なリビドーと文学的なエロス

フロイトの精神分析学体系の基盤には、性欲を駆動するリビドーがあります。 リビドーに関する一般心理学書には時々、『リビドー=性欲』という短絡的で誤解を招く記述がありますが、リビドーは私たちが日常生活の文脈で語る『心理的な異性(同性)とのセック…

自然界の偶然性と必然性が織り成す進化現象

チャールズ・ダーウィンの『種の起源』(1859)により、自然界に生きる生物の形質の適応的変化を研究する科学的な進化論が幕を開けた。 『進化(evolution)』は、その訳語の選定の影響もあって、前進向上(improvement,advancement)や進歩発展(development,progr…

第20回京都賞開催に際して雑感・ハーバーマスの受賞

京セラの創設者・稲盛和夫が理事長を務める稲盛財団は、人類の文明・科学の進歩発展及び精神的な深化探求に貢献した学者・研究者に『京都賞』という国際的評価も高い学術賞を贈呈しているのだが、その歴代の受賞者の顔ぶれは壮観で優秀な研究者でありながら…

未開部族社会における死から再生するイニシエーションとその意義の衰退

イニシエーション(initiation)*1と言う言葉が日本で有名になったのは、皮肉な事にオウム真理教の地下鉄サリン事件を始めとする一連の犯罪報道を通じてであった。 その余りにも異様な集団と反社会的な教義の影響から抜け出せない後遺症なのだろうか、一般の人…

精神分析学の転移概念と分析的関係の距離感

id:cosmo_sophy:20041110の記事で、精神分析やカウンセリングの治療的面接の場面において生起する『転移(transference)と逆転移の概念』*1について簡略な説明をした。転移とは、クライエントの過去の記憶に痕跡を残している強烈な満たされない感情の向かう先…

対人関係の苦悩や葛藤:創造的な人生の豊かさを演出する対人関係への変容

あなたには、現在、自分を苦しめている悩みや解決の困難な問題、耐え難い苦悩を生じる事態がありますか? 人間の苦悩や不安、更には、悲しみ、苛立ち、焦燥感、憂鬱感などは総じて『心理的問題』であると同時に『関係的問題』です。 私の抱える悩みや苦しみ…

ぷちナショナリズム症候群のサマリー感想とエディプス・コンプレックス

ぷちナショナリズム症候群のサマリー http://homepage1.nifty.com/nuka/kasetu/siryo/0212/putinasyo.html 精神科医・香山リカの著書に『ぷちナショナリズム症候群〜若者たちのニッポン主義』があり、未読だがサマリーがあったので読んでみました。 序章 「…

マグナ・グレキアを実現したギリシア人の歴史

民主主義思想と民主政治について、縷々と取り留めなく書き連ねてきましたが、民主主義の原点を遡れば、アリストテレス(B.C.384-B.C.322)*1のアテナイの政治体制に関する記述を読む事になるでしょう。*2古代ギリシア世界のアテナイのギリシア人*3による民主政…

民主主義思想と政治参加する市民(citizen)について

民主主義とは、政治的な意志決定方法に関する『政治思想』であると同時に、共同体とその共同体に属する個人である市民(citizen)の政治的なあり方を規定する『政治形態』である。 民主主義政体においては、『国民主権・主権在民』が前提であると学校の公民の…

ケインズ的政策と資本主義経済の発展度

現代のマクロな市場経済は、景気循環論に示されるような周期的に訪れる不景気・インフレ・デフレの危険と長期的観点での恐慌発生の可能性といった不安定さを抱えている。 20世紀後半の主流だったケインズ経済学は、そういった市場経済の欠点を公共事業を中…

生命の価値判断と脳機能中心の人間観

id:cosmo_sophy:20040923で、バイオエシックスの話題に少し触れましたが、バイオエシックス=生命倫理学は、生物学と倫理学を架橋する学問分野であり、『不可侵の生命の尊厳』や『人間の科学技術による生命の人為的操作の是非』について倫理的に考察を進める…